Doug Raney Introducing Doug Raney

1977年発表の本作は、Doug Raney という人のデビュー作なんですが、ほとんどの人は知らないのではないでしょうか。彼の父親は主に1950年代以降に活躍した Jimmy Raney という guitarist です。Cool Jazz の時代から Bebop〜Hard Bop を通じてメインストリームを歩んだ通好みのミュージシャンで、私の馴染みの場所 Kentucky州Louisvilleで生まれ、故郷で亡くなりました。

息子は56年生まれということで、父に guitar の手ほどきを受けつつ最初は Rock を志したそうです。しかし次第に父の仲間である Al Haig など偉大な先輩の影響で Jazz に目覚め、彼らのバンドで腕を上げた後にデンマーク Copenhagen のレーベル SteepleChase でデビューしました。

ところで、SteepleChase は、ヨーロッパのレーベルなのに第一線を退いた米国人ミュージシャンを次々に受け入れ、まるで彼らの終の棲家を支援するかの如く演奏と生活の基盤を提供していたレコード会社でした。これは、デンマーク自体が芸術家に対して手厚かったことも理由とはいえ、Dexter Gordon、Duke Jordan、Kenny Drew、Jackie McLeanなど契約アーティストには一流のプレーヤーが目白押しで、欧州のJazzレーベルでも最も有名な会社のひとつでしょう。音的には BlueNote などのリバーブが効きまくった黒い感じとは全然違うやや軽さのある録音が特徴で、良く言えば聴きやすい、悪く言えばガツンと来るような楽曲はそれほど期待できない、というのが私の印象です。
そんな SteepleChase などより昔にアメリカを追われた(薬漬けの)Jazz 奏者を受け入れたのはフランスでした。ご存知かもしれませんが、映画「‘Round Midnight
」で描かれた Dexter Gordon 演じる主人公は Bud Powell がモデルで、まさにその逃げ場所が Paris だったわけです。さらに、これもご存知の向きがおありと思いますが、「Stranger Than Paradise」で有名な Jim Jarmusch が撮った「Parmanent Vacation」という作品の後半、たまたま出会った黒人に主人公の青年が唐突に聞かされる「Over The Rainbow」の小話は、さきの Bud Powell を彷彿とさせるもので、この映画の価値をワンランク高めていると思います。小話としてはかなり傑作なので、是非映画の一部としてご覧になってみてください。たぶんこの話だけで感動します。

肝心のアルバムについて。John Coltrane の1.や Sam Jones の8.といったやや速めのナンバーだけでなく、2.や6.のようなバラードでもステディな技術を感じられる好演ばかりで、リリース直後に購入した当初は毎日聴いても飽きない愛聴盤でした。驚くのは、珍しく私が紹介する昔の推薦盤が現在でも廃盤にならず存在しているということでしょうか(笑)

Doug Raney (g)
Hugo Rasmussen (b)
Duke Jordan (p)
Billy Hart (ds)

1.Mr. P.C. 5:33
2.Someone to Watch over Me 6:52
3.Bluebird 6:48
4.The End of a Love Affair 7:16
5.Casbah 10:20
6.I Remember You 4:56
7.Like Someone in Love 3:32
8.Unit 7 5:55
9.On Green Dolphin Street 5:38

Introducing Doug Raney - Doug Raney

Scott Hamilton Scott Hamilton,2

久々の更新になってしまいました。理由はネタ切れではなく、単に面倒くさかっただけです。すみません。
今日のアルバムは、今から30年ほど前によく聴いていたもので、この季節のちょっと涼しい時間帯に流すとピッタリなスウィングナンバー集です。

1950年以降に生まれた Saxophone 奏者は、普通 John Coltrane を始めとするいわゆるハードバップ以降の即興(インプロヴィゼーション)に重きを置いたモダンなスタイルを指向するものなのですが、Scott Hamilton という人は若くして、Coleman Hawkins や Ben Webster といったスウィング時代の名手を徹底的に研究し、メロウで切ないメロディばかりを奏でる当時でも大変珍しいミュージシャンでした。
東海岸のメジャーレーベルではこうしたミュージシャンの出番はなく、New York などで勝負することは不可能なわけで、こうした奏者は芽の出ない地方都市のホテルでラウンジ演奏するくらいが関の山だったに違いありません。

しかし、こうした豊かな才能を拾い上げるのもアメリカの得意技の一つで、西海岸で行われていた Concord Jazz Festival を主催する Carl Jefferson というお金持ちに見出されてデビューします。Jefferson が設立した Concord Jazz レーベルに録音したデビュー盤が評判となり、以後このレーベルの看板スターとして今でも活躍しています。Concord レーベルは比較的軽快で明るい演奏が中心の録音が多く、こうした音楽を元々好むお国柄ゆえ、2000年以降はオンラインの影響による業界の衰退も手伝って様々なレコードレーベルを吸収するに至ります。

Swing Jazz は何だかんだ言っても1930年〜40年あたりが全盛だったこともあり、多くの名演は録音が古く、その味を楽しむのにはいいのですが、いかんせん故人になってしまった名手の演奏は生では聴くわけにいきません。ところが、そうした Old Jazz ファンを満足させうる演奏を当時20代の若者が渋くて粋な風貌で演るというのはたまらなかったのでしょう。私が1990年前後にアメリカの田舎に行っていた時も、年配の人たちはその頃 Frank Sinatra の再来と騒がれた Harry Connick Jr.に夢中だったのを思い出します。
もう一つは、音質の問題です。1970年以降はレコードを再生するためのオーディオ機器などの環境が急速に整ったこともあり、一般家庭でも臨場感のある音響を聴くことが可能になりました。こうしたことも彼らのような音楽を後押ししたかもしれません。

さて、1978年録音のこのアルバム自体はもう廃盤になっており、逆に本作を含むデビュー当時の2枚分が1枚で聴けるお得なコンピレーション盤(下記)が出されています。個人的には、彼の十八番である East of the Sun にしびれて買った記憶があり、全体的にリラックスした中にも熱い演奏の詰まった大好きなアルバムです。

Scott Hamilton (ts)
Cal Collins (g)
Monty Budwig (b)
Nat Pierce (p)
Jake Hanna (ds)

1.East of the sun 3:37
2.There is no greater Love 4:05
3.Rough ridin’ 4:16
4.These foolish things 6:21
5.I want to be happy 4:45
6.Everything happens to me 5:40
7.Love me or leave me 4:12
8.Blues for the players 4:23
5.The very thought of you 3:42
6.It could happen to you 5:40

iTunes Storeでは試し聴きができます。是非「East of the Sun」を聴いてみてください

From the Beginning - Scott Hamilton

Casiopea Jive Jive

半年ぶりの更新となりました。今回ご紹介するのは、日本を代表するフージョングループ、Casiopea の10作目となる1983発表の作品。

Yamaha DX7 という Digital synthesizer の登場で、デジタルサウンドが陽の目を見た頃、この新しい技術を積極的に取り入れようとジャンルを問わず様々な音楽家が可能性を模索したものです。FM音源を主体とする新しい流れは今まで聴いたことのない硬質でキレのある音作りに一役買い、特に Jazz や Fusion の世界ではスタジオだけでなくライブでのパフォーマンスに圧倒的なアドバンテージを与えました。

そうしたツールの導入もありますが、向谷実の整い過ぎたキーボードの旋律(私はちょっと苦手)が一つの特徴だった Casiopea のサウンドに明らかな変化が現れたのが本作です。ロンドン録音での英国人エンジニアによる嗜好もあり、これまでになかったタイトで甘さを殺した演奏が新鮮です。
1.での野呂一生の guitar と神保彰の生々しい drums にはそれまでの Casiopea とは違うドライな激しさが表現されておりテンションを高めてくれますが、良くも悪くも彼らの看板であるキレイな和音の連なりによって Casiopea としての個性を維持しているナンバーになっています。注目は Vocal をフィーチャーした楽曲で、Kiki Dee が歌う3.はメンバーによるバックコーラスも加わり非常に新鮮な印象を与えてくれます。個人的に好きなのは、少し矛盾しますが向谷作の4.です。耳に残るリズムと旋律で一度聴くとなかなか忘れられません。

全体的に新機軸を打ち出した感のあるアルバムですが、この後のメンバーの入れ替わりやサウンド面での変化を考えると、彼らにとって色んな意味での曲がり角になった作品と言えるでしょう。

Issei Noro (g,per)
Akira Jimbo (ds,per)
Minoru Mukaiya (Key,Syn)
Tetsuo Sakurai (b)
Drachen Theaker (tabla -5)
Phill Todd (sax -6)
Pete Beachill (tb -6)
Guy Barker, Stuart Brooks (tp)

1.Sweat It Out 4:12
2.In The Pocket 3:37
3.Right From The Heart 4:09
4.Step Daughter 3:43
5.Secret Chase 4:50
6.FabbyDabby 3:53
7.Living On A Feeling 4:20
8.S-E 5:05
9.What Can’t Speak Can’t Lie 3:49

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Helen Merrill Nearness of you

Clifford Brown との共演盤で彼女の代名詞でもある Emarcy のデビュー作から4年後、そのハスキーヴォイスによるレパートリーの広さを見せつけた傑作アルバムです。

特に冒頭の「Bye Bye Blackbird」は個人的に忘れられないナンバーです。大昔に放送されていた FM Tokyo の『音の本棚』という番組がありました。故小池朝雄さん(刑事コロンボでお馴染み)がホストを務めるいわゆるラジオドラマなのですが、現代小説なども果敢にドラマ化して一流の声優さんが登場人物を演じるのが聴きどころでした。

私は、10代の頃に矢作俊彦氏のハードボイルド小説を読みあさっていたので、彼の作品が取り上げられた回は迷わず録音したものです。その中の一つ、『夕焼けのスーパーマン』というタイトルの作品は、音の本棚史上でも最高傑作に数えられるであろう素晴らしい作品になりました。

物語のあらすじはこうです。

“時代は1970年代、横浜の不良少年リョウは拳銃不法所持の容疑で神奈川県警で取り調べを受けていた。モデルガンだったことがわかり、捜査員がいなくなった取調室に捜査一課の刑事である二村エイジがたまたま現れ、リョウと知り合う。
実はリョウは横浜の名士の子息で警察には手に負えるような少年ではなかった。二村に釈放されたリョウは雨の夜に横浜スタジアムで麻薬の取引に関わる。しかし彼は取引相手をモデルガンのはずだった拳銃で殺してしまう。そこに女が車で現れ、リョウを乗せて走り去っていく。女は本当は麻薬シンジケートのボスの連れ合いで、密かにリョウに想いを寄せていた。女の部屋で二人は取引したカネが全部新聞紙だと分かり・・・”

全編に渡って繰り広げられるウィットに富んだジョークや独特の台詞回しが、今では多少古くさく感じられますが、当時の感覚ではとてつもなくカッコよく、田舎の少年にとってはしびれる世界だったのです。

『二村さん、あんたそれでもデカかい?』
『キャデラックに乗ったサルタンにでも見えるかい?』
『オールズモビルに乗ったベガスの芸人には見えるぜ』
『何があったか、咳きこんで聞いてやろうか?』

こんな感じで物語は進んで行きます。
そのドラマの最後、二人が電話で話すシーンなのですが、ラストにかぶるように本作の「Bye Bye Blackbird」が流れてきます。カセットテープからデジタルに落とした音源を、今でも時々聴き直してはノスタルジーに浸っています。

Helen Merrill (vo)
Bobby Jaspar (fl-2,7,9,10,12)
Mile Simpson (fl-1,3,4,5,6,8,11)
Bill Evans (p-2,7,9,10,12)
Disk Marx (p-1,3,4,5,6,8,11)
Fred Rundquist (g-1,3,4,5,6,8,11)
George Russell (g-1,3,4,5,6,8,11)
John Frigo (b-1,3,4,5,6,8,11)
Oscar Pettiford (b-2,7,9,10,12)
Jerry Slosberg (ds-1,3,4,5,6,8,11)
Jo Jones (ds-2,7,9,10,12)

1.Bye Bye Blackbird (2:57)
2.When the sun comes out (4:47)
3.I remember you (2:11)
4.Softly as in a morning sunrise (3:19)
5.Dearly beloved (2:07)
6.Summertime (3:28)
7.All of you (3:33)
8.I see your face before me (2:39)
9.Let me love you (2:48)
10.The nearness of you (4:06)
11.This time the dream’s on me (2:21)
12.Just imagine (3:21)

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Kazumi Watanabe Spice Of Life

’70年代デビュー当時は「17才の天才少年」と言われた渡辺香津美ですが、暁星高校で先輩だったモト冬樹の guitar プレイからも影響を受けているというのは有名な話です。若くして天才と呼ばれる場合、大抵はどの分野でも=『驚くようなテクニックの持ち主』であることが多く、デビュー後間もなく玉を打ち尽くして忘れ去られてしまう人が沢山います。

しかし、彼は違いました。食えない Jazz の世界にあって、TVのようなメディアにも露出し YMO 以前からの坂本龍一との活動など、ヘンな自己犠牲をするでもなく自分の目指す音楽を追究できたのは、実力以上に運も味方したのでしょう。

私がこのアルバムが好きなのは、もちろん Bill Bruford がお気に入りというのもありますが、曲調に溶け込む3人のインタープレイの見事さが何よりの理由です。もともと緊張感に溢れた演奏が大好きなだけに、ここで繰り広げられる3者のプレイ一つ一つが完成度の高い空間を作り出し、最後まで飽きさせることなく楽しむことができるのです。静岡で行われたツアー公演の映像がビデオ化されているのですが、Bruford の驚くほどリラックスした演奏に感銘を受けました。Simmons などの電子機器も駆使しテンションが高い楽曲にも拘わらず、しゃかりきにならず的確な間で叩く様は、渡辺香津美がいう、『彼はマスタードラマー』という形容詞がピッタリの悟りの境地の世界といえます。また、Berlin のウォームで厚みがありながらも超絶技巧な bass サウンドがこのユニットに必須の土台になっています。

ともあれ、2.のスリル満点の展開や、8.のロック調のリズムに乗った YMO に相通ずるようなメロディー、9.のような Abstruct な楽曲でも3人の個性が見事に表現されているなど、渡辺香津美の最高傑作と呼んで差し支えない作品です。市場には新譜は存在しないでしょうが、是非とも聴いていただきたい名盤です。

さらに、余りにも稀少盤ばかりの紹介ではアレなので、70年代に日立の「Lo-D」というオーディオ機器のCMに使われた『Unicorn』という名曲が収録された「TO CHI KA」のリンクも加えておきます。私も大好きな Mike Mainieri に制作を託した New York 録音の本作は、渡辺香津美を日米双方で一躍スタープレーヤーに押し上げた記念碑的な作品です。こちらは入手可能です。

Kazumi Watanabe (g)
Jeff Berlin (b)
Bill Bruford (ds)

1.Melancho 3:29
2.Hiper K 5:38
3.City 4:29
4.Period 6:38
5.Unt 5:48
6.Na Starovia 4:43
7.Lim-Poo 4:51
8.J. F. K. 4:55
9.Rage In 6:18

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渡辺香津美

David Lindley El Rayo-X

Jazz のアルバムではありませんが、もしお聴きになったことがないなら、音楽が好きという理由だけで結構ですので一聴をお勧めします。必ず楽しんでいただけると思います。

David Lindley という人はその風貌に拘わらずたぶん「オタク」です。彼を表す象徴的なエピソードは、若い頃 California の片田舎の Banjo コンテストで5年連続圧倒的ブッチ切りで優勝してしまい、翌年からは困った主催者側から『頼むから審査員として出てくれ』と言われたなんて話でしょうか。能ある鷹は爪を隠さずという感じで、あらゆる楽器を嗜み、バンド活動を始めてからもその才能を Jackson Browne などからも高く評価されました。本作は彼のソロデビュー作なのですが、それまでは Browne の guitarist としての活動もしており、本作においてはマルチ楽器奏者という面も忘れずにその多才ぶりを披露しています。日本でのリリースのためにその邦題を「化けもの」と名付けたことからも相当ユニークなキャラクタの持ち主です。

全体的にレゲエ調のナンバーにしている理由はよくわかりませんが、誰のカバーでも心地よくアレンジされていて、彼の妙に高い声質がどういう訳か自然に耳に馴染んできます。特にお気に入りなのが「Twist and Shout」で、チープな organ の音色が聴く者をリラックスさせ、繰り出されるサウンドについつい引き込まれる不思議な体験をすることができます。何でしょう、このノリは。今聴き返すと、このサウンドは現状のこの国を覆うモヤモヤした雰囲気を吹き飛ばすというか、どこか希望を与えてくれる音に感じてしまうんですよね。Jackson Browne のような社会性や政治色には無縁な Lindley のサウンドは、現状の悩み多き日常に必要な潤滑剤のような存在になる気がします。

David Lindley (vo, g, b, slide g, fiddle, Mandolin, whistle, baglama)
Bob Glaub (b)
Reggie McBride (b)
Ian Wallace (ds)
Curt Bouterse (dulcimer)
Garth Hudson (key)
Ras Baboo (Accordion, timbales, per, vo)
Billy Payne (org)
William “Smitty” Smith (org)
Jackson Browne (vo)
Jorge Calderón (vo)

1.She Took Off My Romeos 3:00
2.Bye Bye Love 2:50
3.Mercury Blues 3:33
4.Quarter Of A Man 3:45
5.Ain’t No Way 3:42
6.Twist And Shout 2:44
7.El Rayo-X 2:53
8.Your Old Lady 4:14
9.Don’t Look Back 3:55
10.Petit Fleur 3:11
11.Tu-Ber-Cu-Lucas And The Sinus Blues 2:14
12.Pay The Man 3:30

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El Rayo-X - David Lindley

Pat Metheny Group Still Life(Talking)

大変な災害が起こってしまいました。3週間近く経っても依然として被害の全貌が明らかにならないほどの震災を前に、歌舞音曲どころではないと当サイトは封印しておりました。しかし現在までの経緯を見て、報道ではなく現地に何らかの形で必要とされて赴かれた方々の声を聞き、音楽がもたらす効果は決して無駄ではないと考え再開することにします。

今回のピックアップが果たしてどの程度の効果になるのかはわかりません。しかし今、私がお届けできる最高のメッセージはこのアルバムしか思い浮かびません。

本作は、Metheny が ECM から David Geffen のレーベルに移籍後の第一作で、前作の「First Circle」の路線を踏襲し Metheny Production として放った史上稀に見る傑作アルバムとなりました。私は前作とは違い、本作を別格と考えるのは、その完成度の高さよりも本作が成し遂げた広範囲にわたる Metheny サウンドの伝播です。これほどポピュラーな Instrumental Jazz の普及に寄与した作品はないと思うくらい、一般のリスナーも Pops 系のアーティストもリスペクトを込めて賞賛したものです。特に3.については松任谷由実がラジオ番組で何度も流し、手放しで楽曲の素晴らしさをアピールしていたのを思い出します。Jazz 的な価値はアルバムを通しても余りありますが、1.の guitar ソロに見られる彼らしい展開の仕方もその後の作品に繋がる試金石となっていますし、ライブでお馴染みの5.におけるプレイは、世界中の guitar プレーヤーに衝撃を与えた驚異的な演奏として現在まで語り継がれています。

3.Last Train Home で重要な役割を果たす Blamires と Ledford のバラけたコーラスは、人間の心に佇む感動という波を揺さぶり、この楽曲が持つ力を永遠に輝かせ続ける魔法として聴くものの記憶に残ることでしょう。

すべての人の心に響くものではないかもしれませんが、ここに刻まれたサウンドが痛手を負った心に多少でも希望やチカラを運んでくれたらと切に願います。

Pat Metheny (g, g-syn)
Lyle Mays (p, key)
Steve Rodby (b)
Paul Wertico (ds)
David Blamires, Mark Ledford (vo)

1.Minuano (Six Eight) 9:25
2.So May It Secretly Begin 6:24
3.Last Train Home 5:38
4.(It’s Just) Talk 6:16
5.Third Wind 8:33
6.Distance 2:43
7.In Her Family 3:15

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Still Life (Talking) - パット・メセニー

John Coltrane and Johnny Hartman

これから不定期な雪や雨の日が到来し、「一雨毎(ひとあめごと)に春になり」という季節になってまいりました。仕事で忙しいのは変わらずとも、夜は暖かい家の中でリラックスしたいものです。

そんな夜のひとときにこれ以上無いと思う音楽が今日ご紹介するアルバムです。名盤なのでご存知の方も多いでしょう。John Coltrane 黄金期の Quartet としては、傑作の誉れ高い『A Love Supreme』の前年の録音(1963年)ですが、何とも穏やかなサウンドが聴く者の心を捉え、Hartman の珠玉の歌声に酔いしれることができる屈指の vocal アルバムでもあります。この頃の Coltrane 自体は、いわゆる「Sheets of sound」を体得せんと蕩々と続くインプヴィゼーション(即興)の世界を探求する表現者として、演奏の出来不出来の波に苦しむ時代でした。そんな姿を見ての判断なのか、あるいは単にコマーシャルな思惑なのかわかりませんが、producer の Bob Thiele が期待した通りの素晴らしい作品になったのでした。

Hartman の vocal には男女を問わず感銘を受けるでしょう。当時彼の公演の際は女性客がメロメロになったそうですが、男であってもぐっと来るセクシーな歌いっぷりは、後にも先にも全盛期の Frank Sinatra くらいしか対抗馬を思いつきません(今度ピックアップします)。本当のオトナのための楽曲として、個人的にはオトナの女性に是非聴いてもらいたい作品の一つです。ゆったりと食後酒でも飲みながら楽しんでいただけると良いかと・・・

John Coltrane (ts)
Johnny Hartman (vo)
Jimmy Garrison (b)
McCoy Tyner (p)
Elvin Jones (ds)

1.They Say It’s Wonderful 5:22
2.Dedicated To You 5:34
3.My One And Only Love 4:58
4.Lush Life 5:30
5.You are too beautiful 5:36
6.Autumn Serenade 4:22
7.Vilia 4:39(CD only)

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John Coltrane and Johnny Hartman - EP - ジョン・コルトレーン & Johnny Hartman

Fleetwood Mac Rumours

一応、レビューする前は昔の音源を引っ張り出してちゃんと聴き返してみることを心掛けています。ところが、「このところ、メインストリームがご無沙汰だからこの辺を・・・」などと探っているうちに、ジャンルの違うものが懐かしい思いに釣られて引っかかってしまいます。このアルバムも引っかかるべく取り上げてしまった一つでございます。

1977年、米Billboardで驚異的な31週連続1位を成し遂げたアルバムであり、全世界でおよそ1,700万枚を売り上げた作品です。70年代の全米チャートでは Billboard 200 に700週以上に渡ってチャートインしていた Pink Floyd の「The Dark Side of the Moon」のような化け物アルバムも存在しますが、私はリアルタイムでFM東京の「The World Music」(こちらはCashboxチャート)の小林克也さんが『This week’s No.1 ・・・Fleetwood Mac, Rumours!』と春先から秋まで毎週叫んでいたのを覚えています。とにかく、当時の人気は大変なものでした。このアルバムの中から4曲のシングルカットがそれぞれチャートで1位を独占し続けていたので、アルバム・シングルともに Fleedwood Mac 一色の年だった記憶があります。ヒットとは裏腹にバンドメンバー間の確執がピークだったとは到底思えません。

過去何度もカバーされた「Dreams」は今聴いても当時の感動が甦ってきます。Stevie Nicks の泣きそうな vocal にコーラスがかぶる部分は、カバー曲では超えられないオリジナルの圧倒的な価値でしょう。アルバム中に駄作が一つもない真の傑作というのは、ジャンルを問わずなかなかありませんが、この作品は数少ない例であり、人類の宝といっても過言ではないでしょう。ご存じない方は是非一度聴いてみて、70年代アーティストの音楽性の高さに触れて欲しいです。

Stevie Nicks (vo)
Lindsey Buckingham (g, vo)
Christine McVie (p, key, vo)
John McVie (b)
Mick Fleetwood (ds, per)

1.Second Hand News 2:43
2.Dreams 4:14
3.Never Going Back Again 2:02
4.Don’t Stop 3:11
5.Go Your Own Way 3:38
6.Songbird 3:20
7.The Chain 4:28
8.You Make Loving Fun 3:31
9.I Don’t Want To Know 3:11
10.Oh Daddy 3:54
11.Gold Dust Woman 4:51

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Rumours - Fleetwood Mac

Herbie Hancock Man-Child

良く聴きもせずに最近の音楽はつまらない、とか昔は良かったとか言っていても、昔の音なんて古くさいだけぢゃん、となりそうです。そんなワケで奥の手を出すことにします。個人的 Herbie Hancock 準最高傑作をご紹介しちゃいましょう。1975年の作品です。

ベストが『 Head Hunters
』は譲れないので準最高にしましたが、Jazz 作品がダメなのではなく当時の曲調、アンサンブルがずば抜けすぎているため仕方がないのです。この頃はファンから随分バッシングがあり「生 Jazz に戻れ!」的な批判を多く浴びていました。今も昔も気に入った音楽家にはずっと同じ事をやっていて欲しいというファン心理からなのでしょう。

どうか、1.を聴いてください。二度と忘れられない Wah Wah Watson の guitar とブラス陣による圧倒的なアンサンブル。後半の electric piano のソロに被さってくるブラスの躍動感としびれるエンディングまで息つく暇もなく展開される Hancock ワールドに酔いしれることでしょう。カッコいい音楽というのはこういうモノのことを言うのです。『Head Hunters』から2年、この人は Funk をやらせても時代を切り開く超一流のパフォーマンスを成し遂げてしまうのです。それを出来もしないのに「あんなのは邪道だ」みたいにボソボソと4ビートにしがみついていただけの同業者もいたのです。翌年発表された『 Secrets
』に至っては世界一の cutting guitarist である(Ghost Bustersで売れる前の)Ray Parker Jr.が加わり、リズムは最強になりますが、ブラス色が薄まってしまいそのままフェードアウトしていって Bill Laswell との Hip-hop 路線までファンクは封印されます。しかし、彼の黒いリズムと旋律は acoustic な Jazz の範疇では表現しきれないのは事実で、このアルバムも音楽芸術の一つの到達点に数えられると言えます。

Herbie Hancock (Fender Rhodes,Arp Odyssey, Pro Soloist, 2600, String Ensemble Synthsizers,Hohner D6,Oberheim Polyphonic)
David T. Walker (g)
Stevie Wonder (harmonica)
Blackbird McKnight (g)
Wah Wah Watson (g,Voice Bag,Maestro Universal Synthesizer System,Maestro Sample And Hold Unit)
Bennie Maupin (ss,ts,Saxello,Bass Cl,bf,af)
Wayne Shorter (ss)
Ernie Watts,Jim Horn,Garnett Brown,Bud Brisbois,Jay DaVersa,Dick Hyde (horns)
Paul Jackson (el-b)
Henry Davis (el-b)
Louis Johnson (el-b)
Harvey Mason (ds)
James Gadson (ds)
Mike Clark (ds)
Bill Summers (per)

1.Hang Up Your Hang Ups 7:26
2.Sun Touch 5:08
3.The Trailor 9:35
4.Bubbles 8:59
5.Steppin’ In It 8:38
6.Heartbeat 5:16

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