1977年発表の本作は、Doug Raney という人のデビュー作なんですが、ほとんどの人は知らないのではないでしょうか。彼の父親は主に1950年代以降に活躍した Jimmy Raney という guitarist です。Cool Jazz の時代から Bebop〜Hard Bop を通じてメインストリームを歩んだ通好みのミュージシャンで、私の馴染みの場所 Kentucky州Louisvilleで生まれ、故郷で亡くなりました。
息子は56年生まれということで、父に guitar の手ほどきを受けつつ最初は Rock を志したそうです。しかし次第に父の仲間である Al Haig など偉大な先輩の影響で Jazz に目覚め、彼らのバンドで腕を上げた後にデンマーク Copenhagen のレーベル SteepleChase でデビューしました。
ところで、SteepleChase は、ヨーロッパのレーベルなのに第一線を退いた米国人ミュージシャンを次々に受け入れ、まるで彼らの終の棲家を支援するかの如く演奏と生活の基盤を提供していたレコード会社でした。これは、デンマーク自体が芸術家に対して手厚かったことも理由とはいえ、Dexter Gordon、Duke Jordan、Kenny Drew、Jackie McLeanなど契約アーティストには一流のプレーヤーが目白押しで、欧州のJazzレーベルでも最も有名な会社のひとつでしょう。音的には BlueNote などのリバーブが効きまくった黒い感じとは全然違うやや軽さのある録音が特徴で、良く言えば聴きやすい、悪く言えばガツンと来るような楽曲はそれほど期待できない、というのが私の印象です。
そんな SteepleChase などより昔にアメリカを追われた(薬漬けの)Jazz 奏者を受け入れたのはフランスでした。ご存知かもしれませんが、映画「‘Round Midnight
」で描かれた Dexter Gordon 演じる主人公は Bud Powell がモデルで、まさにその逃げ場所が Paris だったわけです。さらに、これもご存知の向きがおありと思いますが、「Stranger Than Paradise」で有名な Jim Jarmusch が撮った「Parmanent Vacation」という作品の後半、たまたま出会った黒人に主人公の青年が唐突に聞かされる「Over The Rainbow」の小話は、さきの Bud Powell を彷彿とさせるもので、この映画の価値をワンランク高めていると思います。小話としてはかなり傑作なので、是非映画の一部としてご覧になってみてください。たぶんこの話だけで感動します。
肝心のアルバムについて。John Coltrane の1.や Sam Jones の8.といったやや速めのナンバーだけでなく、2.や6.のようなバラードでもステディな技術を感じられる好演ばかりで、リリース直後に購入した当初は毎日聴いても飽きない愛聴盤でした。驚くのは、珍しく私が紹介する昔の推薦盤が現在でも廃盤にならず存在しているということでしょうか(笑)
Doug Raney (g)
Hugo Rasmussen (b)
Duke Jordan (p)
Billy Hart (ds)
1.Mr. P.C. 5:33
2.Someone to Watch over Me 6:52
3.Bluebird 6:48
4.The End of a Love Affair 7:16
5.Casbah 10:20
6.I Remember You 4:56
7.Like Someone in Love 3:32
8.Unit 7 5:55
9.On Green Dolphin Street 5:38