Gil Evans Gil Evans & Ten

前回の予告通り、Gil Evans の代表作にして Big Band Jazz の未来を方向付けた必聴アルバムをご紹介いたします。

Miles Davis の音楽に Gil Evans の存在がなかったら、あのような名声も傑作の数々も生まれなかったということは周知の事実でしょう。「Miles Ahead」、「Porgy and Bess」、「Sketches of Spain」はもちろんのこと、クレジットされていない作品でも膨大な数のレコーディングに関わっていて、Davis 自身も彼の才能に依存していたといいます。そんな影の立役者的なポジションは、彼自身の生涯にわたって象徴的なものになっていきます。Web 上の情報ではほとんど触れられていませんが、晩年を含めて経済的には決して成功者とは言えない音楽家としての一面もあり、そういった部分が前回ご紹介した Gerry Mulligan とは最後まで対照的でした。Mulligan は奏者・作編曲家として成功し、経済的にも不足なく生涯を終えることができたのに対して、Evans はむしろ金銭的な欲もまた得られる機会からも遠いまま1988年に人生を終えました。
1980年代に話題となった NY の Sweet Basil における「Monday Night Orchestra」もそうですが、米国特有の芸術家に手厚い仕組みがなければ、ライブ演奏や単発のレコーディングによる収入だけでは喰っていけないのです。

さて、本作についてですが、1957年録音の Evans 名義としては最初となるアルバムで、楽曲に著しい特色は感じられないにも拘わらず、中身は非常に斬新な構成になっています。特に 2. については、この時代の Big Band 演奏としては衝撃のアレンジと、Steve Lacy や Jimmy Cleveland らトンガった個性の持ち主たちの魅力を引き出し、永遠に Big Band Jazz の転換点として記憶されるべき名演だと私は思います。ソリの部分に不協和音と思わせるような斬新なアレンジは、後に傑作アニメ映画「ルパン三世 カリオストロの城」で大野雄二によるテーマ曲の Jazz バージョンを聴いた時に真っ先に「Ella Speed の影響だな」と思ったものです。いや、実際にそうなのかは本人も言っていないし、わかりません。しかし、あのバージョンを聴くと私は必ずこのアルバムを思い出してしまうのです。

Jimmy Cleveland : trombone
Bart Varsalona : bass trombone
John Carisi : trumpet on 1
Louis Mucci : 1st trumpet
Jake Koven : 2nd trumpet
Willie Ruff : french horn
Lee Konitz : alto saxophone
Steve Lacy : soprano saxophone
Dave Kurtzer : bassoon
Gil Evans : piano
Paul Chambers : bass
Nick Stabulas : drums
Jo Jones : drums on 1

1. Remember (4:30)
2. Ella Speed (5:47)
3. Big Stuff (4:45)
4. Nobody’s Heart (4:22)
5. Just One Of Those Things (4:23)
6. If You Could See Me Now (4:15)
7. Jambangle (4:57)

Gil Evans - Gil Evans & Ten

Gerry Mulligan Night Lights

Weather Report 特集は前回でひとまず第一回を終えまして、またその気になった時に再開いたします。今回は… これは名盤ですね。文句ありません。

何と言っても、Shopin をアレンジした「Prelude in E minor」。これを聴くとかつての FM東京の深夜番組「Aspect in Jazz」のテーマ曲として当時の想い出がよみがえってきます。油井正一さんの『こんばんは。ゆいしょういちです。てぃーでぃーけーがおおくりする〜』というちょっとダミ声の名調子がすっと浮かんできます。「Mr. Lonely」を聴くと「Jet Stream」の城 達也さんの声を思い出すのと一緒なんですが、私としてはあの情報の少ない時代にこの番組に本当に助けていただいてましたので感傷的にさえなってしまいます。

さて、Gerry Mulligan という人ですが baritone sax の第一人者であり、西海岸を代表する作編曲の大御所でもあります。次回ご紹介する予定の Gil Evans とは180度反対側にいた(音楽的にではなく)境遇と幸運に恵まれた才人として Jazz 界の金字塔の一人と言えるでしょう。Mulligan は演奏なんかしなくてもアレンジャーとして充分にメシを喰っていけてた人でした。1940年代には Claude Thornhill や Stan Kenton の楽団に提供したアレンジがとても斬新で作編曲家としての地位を充分確立していました。
その後、50年代に California へ移りこの人の専売特許とも言える pianoless quartet での活動を始め、いわゆる West Coast Jazz を誕生させることになります。この成果は歴史に残る偉業といっても良いくらいで、今日の西海岸の Jazz・Fusion シーンを生み出した功労者は Mulligan だといって差し支えないと思います。モダンな時代の Jazz に piano がいない集団演奏が成り立たないわけではないですが、当時の感覚では管を加えた combo 演奏にとってはあり得ないほど斬新だったようです。

本作は Mulligan の代表作の一つであり、脇を固める Jim Hall や Art Farmer も寸分の狂いなく完璧な演奏を繰り広げています。前述の曲の他、一曲一曲が珠玉の名演となっており、静かな中にもピンと張り詰めた心地よい緊張感と絶妙なアレンジによる Festive Minor のような佳曲によって baritone sax という脇役楽器の真の魅力を存分に味わえるアルバムとなっています。

Art Farmer (tp, flh)
Bob Brookmeyer (v-tb)
Gerry Mulligan (p on A-1, bs)
Jim Hall (g)
Bill Crow (b)
Dave Bailey (ds)

1. Night Lights [1963 Version] 4:58
2. Morning of the Carnival (Manha de Carnaval) 5:31
3. In the Wee Small Hours of the Morning 5:40
4. Prelude in E minor 4:17
5. Festival Minor 6:51
6. Tell Me When 4:09
7. Night Lights [1965 Version] 2:56

Gerry Mulligan Sextet - Night Lights

Weather Report Tale Spinnin’

前回の「Sweetnighter」から1作飛んで、1975年発表の非常に思い入れの強い作品を先にご紹介します。

『bass はすべての音楽の母であり、drum は父である』〜Joe Zawinul〜

Vitous も Gravatt もいなくなり、ツアーのみに参加した Sly and Family Stone の drummer である Greg Errico もレコーディングまで持たず、リズム陣を模索していた Zawinul はまずネイティブな funk 要素を持った electric bass の Alphonso Johnson を起用しました。drum は Zawinul が最もこだわるパートで、器用さやテクニックにもましてパワーを求めていたため、前作でつないだ Ishmael Wilburn に替えて当時 Carlos Santana のメンバーだった Nduge Leon chancler に声を掛けてリハーサルなしで加えたのでした。

このアルバムは、Johnson と Ndugu のおかげでとてつもなくファンキーな、それでいて土着的な色を失わない Weather Report ならではのサウンドを実現できています。思い入れの強い私としては、前半の楽曲に関しては涙なしで聴くことができないので、かなり覚悟をした上でこっそり聴くクセがついたし、なんというか、「これが Weather Report だ」というサウンドは、理解していただけない方には決して語ることなく、苦節30年耐えてまいりました。これからも「できれば、あんまり分かって欲しくない」作品の一つであり続けるかもしれないけど、こういう音を聴く贅沢さはやはり口を開いてしまう誘惑に負けてしまいます。

Joe Zawinul Rhodes piano, melodica, acoustic piano, TONTO synthesizer, Arp 2600 synthesizer, organ, steel drums, out, mzuthra, vocals, West Africk, xylophone, cymbals
Wayne Shorter Soprano & Tenor Saxophone
Alphonso Johnson Electric Bass
Leon “Ndugu” Chancler Drums, Cymbals, Tympani
Alyrio Lima Percussion

1. Man in the Green Shirt 6:28
2. Lusitanos 7:24
3. Between the Thighs 9:33
4. Badia 5:20
5. Freezing Fire 7:29
6. Five Short Stories 6:56

Weather Report Sweetnighter

Weathre Report 特集の三回目は、1973年発表の Sweetnighter をご紹介いたします。彼らを彼らたらしめる非常に重要なターニングポイントとなったアルバムです。

Zawinul は、「これは世界で最初のヒップホップ音楽だ」と公言しています。1.Boogie Woogie Waltz こそ私がこのバンドのベスト3に選ぶ名曲中の名曲なのですが、この頃のバンドには大きな転換期が訪れていたことも作品に影響を与えています。
これまで、先鋭的な Jazz のエキスパート集団として活躍してきた彼らが、Miles Davis らが指し示した音楽の方向性や Free Jazz の独創性を手放すことなく、より商業的にもアピール可能な道を無駄な妥協をせずに達成するにはどうしたら良いか、という難題に取り組んだ最初の成果がこの作品に結集しているからなのです。

そうした Zawinul の構想には犠牲が伴ったことも事実で、Vitous や Gravatt のような才能溢れたメンバー達に「これも Jazz なんだ」と説得しつつも、最終的には共鳴を得られずに袂を分かつきっかけにもなってしまいました。Gravatt の代わりに作編曲家であり NY のスタジオ運営をしていた Herschel Dwellingham に一時的なトラを頼み、bass には English Horn を始めとするマルチプレーヤーで前作「I Sing The Body Electric」や Fifth Dimension の録音などに参加していた Andrew White III を招いて録音するという状況の中で生まれたのが本作です。
後の Funk 音楽すべてに共通するようなビートやメロディライン、決して置き去りにされない自由なソロ空間など、Weather Report でなければ到達できない音楽世界を創り出していることが、このアルバムをより重要な位置づけとしなければならない理由です。このあたりを咀嚼せずに「Black Market」以降に出会うと単なるポピュラー音楽としての評価しかできない耳になってしまうと私は思っています。

Josef Zawinul: Electric and acoustic piano, synthesizer
Wayne Shorter: Soprano and tenor sax
Miroslav Vitous: Electric and acoustic bass
Eric Gravatt: Drums (tracks 2, 4 and 6)
Dom Um Romão: Percussion
Maruga: Percussion
Andrew White III: Electric bass (tracks 1, 4 and 6), English horn (tracks 3 and 5)
Herschel Dwellingham: Drums (tracks 1, 2, 3 and 6)

1. BOOGIE WOOGIE WALTZ 13:03
2. MANOLETE 5:55
3. ADIOS 2:59
4. 125th STREET CONGRESS 12:13
5. WILL 6:20
6. NON-STOP HOME 3:52

Weather Report Domino Theory

前回の続き。別に年代順に並べているわけではありません。前作を聴くと自然にここへ辿り着くので仕方がないのです。

メンバーは前作と同じで、ゲストがマントラに変わって Carl Anderson を起用している点が異なりますが、何といっても本作の目玉は 2.Db Waltz です。これぞまさに Weather Report しか実現し得ない強力なナンバーで、Omar Hakim と Victor Bailey のリズム隊が前作に続いて信じられないド迫力のビートを繰り出す様はバンド史上最強と言えるかもしれません。新生メンバー以降のアルバムは一般的に評価が低く、本作も同様に駄作扱いする「うるさ型」が多いですが、そんなことはどうだって良いことだし、クソくらえですし、この魅力的な Waltz 一曲とっても聴くに値すると思います。

要注意は 5. で、Miroslav Vitous や Eric Gravatt らがいた初期の頃のサウンドを彷彿とさせるナンバーとなっており、この曲も含めてやはりサッと聴きで判断できない手強いアルバム構成になっています。
Miles Davis 同様、メインの作品群が Columbia からのリリースのため、Sonyの参加しない日本の iTunes においては入手できません。

Josef Zawinul: Keyboards and synthesizers
Wayne Shorter: Saxophones
Omar Hakim: Drums
Victor Bailey: Bass
José Rossy: Percussion
Carl Anderson: Vocals (on “Can It Be Done” only)

1.Can It Be Done 4:02
2.Db Waltz 11:14
3.Peasant 8:20
4.Predator 5:22
5.Blue Sound – Note 3 6:53
6.Swamp Cabbage 5:24
7.Domino Theory 6:13

Weather Report Procession

Wr-procession

喰わず嫌いな方へ Weather Report の理解を深めていただきたく、特集をしていきたいと思います。その1は、1983年発表の本作にしました。

前作を最後に Jaco Pastorius、Peter Erskine による最強のリズム隊を Bailey、Hakim という若手に替えた新生メンバーとなって、熱心なファンが手ぐすね引いて待つ中で発表された作品となりました。なにしろ、数々の伝説を残した Pastorius が抜けた穴をどんなヤツが埋めるんだとギラギラした眼差しで迎えられた Bailey(当時22歳)も、Erskine に替わる Hakim(当時23歳)も大変なプレッシャーだったと本人たちが認めています。

Omar Hakim はその頃すでに第一線で活躍していたのですが、オーディションなしに Zawinul から「ウチに来い」と言われ、有頂天になって母親に「やった、夢が叶った!」と報告するくらい嬉しがったと言います。Bailey も Hakim が決まった後に共演したデモテープを Zawinul が聴いてOKが出たという幸運によって加入したのでした。
さて、本作の特徴はそれまでの Weather Report にさらに超強力な鉄壁のリズムセクションを補強し直したという印象とともに、Zawinul や Shorter がいつになく激しい演奏を繰り広げた感があります。当時最初に聴いた時は「ずいぶん変わったなぁ」と思ったものですが、やがて聴き込んでいくうちに 3.Two Lines の洪水のようなサウンドが全身に潜むマグマを一気に噴出させてしまうかというくらいの圧倒的な迫力で、自然と流れ出てくる涙をぬぐうのが精一杯になるほどの感動を覚えるようになりました。しかし、実は 1.の表題曲から周到に仕組まれた流れに乗らないと、このような体験にならないということが段々明らかになっていったのです。
そして、Manhattan Transfer が加わった Where The Moon Goes もクライマックスに至るまでの計算された流れに乗りさえすれば、思わぬ感動を得ることができる非常に聴く者の受容力を試される作品と言えます。

Joe Zawinul: Keyboards and synthesizers
Wayne Shorter: Tenor and soprano saxophones
Omar Hakim: Drums, guitar and vocals
Victor Bailey: Bass
José Rossy: Percussion and concertina
Manhattan Transfer: Vocals (on “Where The Moon Goes” only)

1. Procession 8:41
2. Plaza Real 5:30
3. Two Lines 7:42
4. Where the Moon Goes 7:49
5. Well 4:00
6. Molasses Run 5:50

Ray Bryant Slow Freight

秘蔵盤というか、廃盤復刻を繰り返す稀少盤ということで入手困難かと思いますが、あえてご紹介いたします。たぶん、ハマると一生モノになる深〜いアルバムです。

初っぱなから、ぐっとアーシーな piano のリズムに「あっ、これ好き」となる方もいらっしゃると思います。リズム隊とホーンのストイックな展開をよそに、vocal comment の Paul Serano の名調子が重なって少しずつだんだんテンションが上がっていき、ラッパが叫ぶ瞬間に気持ちよさが突き抜ける… という感じが何とも絶妙な Slow Freight でまずヤラれてしまいます。
Donald Byrd 作の 2.は軽快なゴスペル調のナンバー。こんな佳作はやっぱり売れないんでしょうね。1.は1972年の有名な「Alone at Montreux」でも聴くことはできるので雰囲気だけは分かっていただけるかもしれません。とにかく、こういうの好きな人って一杯いると思うんですがねえ。今夜も聴くことにしよっと。

Ray Bryant (p)
Richard Davis (b)
Freddie Waits (ds)
Art Farmer (tp, Flh)
Snooky Young (tp, flh)
Paul Serano (Vocal Comment -1.only)

1. Slow Freight 7:01
2. Amen 5:01
3. Satin Doll 4:54
4. If You Go Away 4:52
5. Ah, The Apple Tree (When The World Was Young) 3:36
6. The Return Of The Prodigal Son 5:06
7. The Fox Stalker 3:34

Wes Montgomery Full House

guitar の名作を登場させましょうか。この人なしでは話が始まりませんからね。絶対に聴いていただきたい名盤をご紹介いたします。

Jazz guitar といえば、Wes Montgomery ですね。独特の親指オクターヴ奏法はこの人の専売特許であり、後世の guitarist でこの人の影響を受けなかった人はいません。以前ご紹介した George Benson はもちろん、Metheny もしかり。偉大なる巨人の一人です。
後の CTI レーベルにおける一連のイージーリスニング路線と違って、この頃はバリバリのハードバップを弾いていた頃でノリも最高です。この録音は、実は楽旅の途中の San Francisco にて、当時 Miles Davis Group の一員だった Wynton Kelly と、やはりたまたま滞在中の Johnny Griffin に Riverside の名 producer である Orrin Keepnews が声を掛け、”Tsubo” というクラブでいわゆる公開録音形式で行われたものです。各人が本当に息の合った熱い演奏を繰り広げていて、一度聴いたら忘れられないメロディが目白押しのアルバムとなっています。

オクターヴ奏法というのは、1弦と3弦、2弦と4弦というようにオクターブ離れた弦を右手の親指のストロークで弾くのですが、こっぱやいメロディも弾くとなると超人的なテクニックが必要になる極めて難しい奏法です。重なった音が独特の暖かみとサウンドの厚みをもたらし、すぐに Montgomery だ、と分かるほど個性的な弾き方です。日本にも、宮之上貴昭(よしあき)さんという「日本のウェス」と呼ばれる人がいて、昔はよくお世話になりました。

このアルバム、実は苦い思い出があります。最初にやっていたお店が火事で焼失してしまった時に、燃えている最中でかかっていたのが Full House でした。

Johnny Griffin (ts, except-2)
Wynton Kelly (p, except-2)
Wes Montgomery (g)
Paul Chambers (b)
Jimmy Cobb (ds)

1. Full House 9:16
2. I’ve Grown Accustomed To Her Face 3:29
3. Blue ‘N’ Boogie 9:38 (take 2)
4. Cariba 9:41 (take 2)
5. Come Rain Or Come Shine 6:57 (take 2)
6. S.O.S. 5:03 (take 3)

Wes Montgomery - Full House (Keepnews Collection)

Manhattan Jazz Quintet

これも懐かしい今から25年ほど前の企画モノ作品です。Great Jazz Trio などと同様に日本発の、というか日本向けに企画されたユニットとしては最も成功したと言えるかもしれません。7,000枚で御の字の Jazz アルバムで、15万枚売れたとか。それを証明するかのように、うるさいファンにはそっぽを向かれたのも事実です。

キングレコードの川島重行さんという producer による発案で生まれたこのユニットが、録音に臨むにあたっての話がスゴイです。

1984年のある夏の夜、New York のスタジオに売れっ子のミュージシャンが忙しいスケジュールの合間を縫って集まってきます。リーダー格である David Matthews が事前に選曲された譜面をメンバーに渡していき、楽器をセッティングしながらそれぞれ楽曲のイメージを頭に描いていきます。午後8時に全員が揃ったところで、早速 Matthews がアレンジした各曲の録音が始まりました。と、あれれ時計が0時を差したあたりで彼らは笑みを浮かべながらスタジオを後にしていきました。

というものです。何とも『プロ』の仕事とはさもありなん、と思わざるを得ない強烈なエピソードですね。その結果が本作なのです。内容的には、ひんやりとした piano や間を大事にしたアレンジによって『白っぽい』Jazz という印象ですが、17歳という若さで参加している Charnett Moffett の bass が思いがけず饒舌なラインを奏で、Steve Gadd もポップな感覚を封印してストレートアヘッドな演奏に徹していながら、やっぱり Gadd だなぁと思わせるあたり、さすがです。Sweet Basil で Gil Evans の Monday Night Orchestra のライブを見た時にすぐ間近で演奏していた Lew Soloff の trumpet もハイノートも惜しまずに圧巻のソロを繰り広げています。まぁ、Jazz の深みとかはこの際目をつぶって、ですが。そもそも 1.は『枯葉』だったらしいんですが、リハなしで本番に入ったら、『Summertime』になってて時間もないのでそのまんま行っちゃったらしいです。

このユニット自体がうまくいき、アルバムが立て続けに発表され、最近でもCDリリースや興行に乗るという有り様には少々苦笑いしたくなる面もありますが、本作の再発後はクレジットに川島さんの名前が無くなっていたりと大人の事情はよく分かりませんけど、当時の Jazz ファンを増やしたということは間違いないと思います。

Lew Soloff (tp)
George Young (ts)
David Matthews (p,arr)
Charnett Moffett (b)
Steve Gadd (ds)

1. Summertime 8:57
2. Rosario 3:07
3. Milestones 8:24
4. My Favorite Things 9:21
5. Airegin 5:40
6. Summer Waltz 4:26

マンハッタン・ジャズ・クインテット - マンハッタン・ジャズ・クインテット

Zoot Sims If I’m Lucky

自分の感覚だけで選んでいくと、当然一般的な評価とは全然違う観点で好きな音楽の世界が出来上がっていきます。つくづく、この食堂は偏ったメニューだなと思う次第で。

Jazz を聴き始めてしばらくすると、歴史を遡って古い時代の巨人といわれる人たちによる演奏にも関心が広がっていきました。Swing 時代の巨人、例えば Lester Young であるとか Ben Webster、Coleman Hawkins らのような花形 sax プレーヤーもそうです。
その Lester Young の系統に位置する Zoot Sims は、彼らのような華々しいスポットライトを浴びていたというわけではありませんが、個人的に大好きな sax プレーヤーです。本作は、70年代に沢山のリリース作品を持つ Pablo レーベルでの一枚です。実はこれも1曲買いに近いもので、5.You’re My Everyting が私的には最高の1曲となっています。

この人の中高音域のシルキーな音色は、ノスタルジックでありながら実に心に染み入るような気持ちよさを感じさせてくれる本当の意味での『名手』の音色だと言えます。冒頭で言いました一般論では、1.、3.、4.、7.あたりが本作の評価対象になるのですが、私は逆らって 5.を押します。とろけるような気持ちよさを味わえます。

Zoot Sims (tenor saxophone)
Jimmy Rowles (piano)
George Mraz (bass)
Mousey Alexander (drums)

1.(I Wonder) Where Our Love Has Gone 4:55
2.Legs 6:32
3.If I’m Lucky 5:30
4.Shadow Waltz 5:35
5.You’re My Everything 5:27
6.It’s Alright With Me 6:55
7.Gypsy Sweetheart 4:18
8.I Hear a Rhapsody 6:29