Jack DeJohnette Parallel Realities

一見すると人気アーティストの豪華競演盤に見えますが、ちょっと違います。

このアルバムは、Jack DeJohnette と Pat Metheny のいわば企画盤といえるもので、Herbie Hancock も実はオマケ扱いでクレジットされているに等しい存在なんです。最終曲のみ Keyboard として加わっていますが、Hancock は各曲で piano での参加をしているだけでゲスト参加と割り切って考えるべきなのです。
bass も keyboard も DeJohnette と Metheny が打ち込みや掛け持ちによって録音したもので、生々しい演奏とは程遠い、ウソくさい音です。そんな作品をどうして取り上げたかというと、まず最初にこのメンツでつまらないはずはない、という確信と、次回ご紹介する予定の Metheny の作品との絡みで是非ともご紹介したいと思ったからです。

リリース後に彼らはライブツアーを行うのですが、録音陣プラス bass に Dave Holland を加えてツアーを回ります。これがことのほかうまくいって、日本にも「Live Under The Sky」にこのメンバーで出演したのですが、これだけのメンバーが揃って演奏したことで素晴らしいパフォーマンスを繰り広げることになりました。特に Metheny の演奏は自身のライブに匹敵するくらい熱いソロを披露して感動した覚えがあります。やっぱり凄い人たちだなぁ、と改めて感心しました。楽曲に偏りがあるものの Carnegie Mellon 大学で行なったライブの模様がDVDで観ることが出来ると思います。入手困難であろうことは、私の推薦作品なのでお察しください。

Jack DeJohnette (ds,key,b)
Pat Metheny (g & syn)
Herbie Hancock (p, key)

1.Jack In 6:23
2.Exotic Isles 6:21
3.Dancing 7:40
4.Nine Over Reggae 7:27
5.John McKee 8:12
6.Indigo Dreamscapes 6:46
7.Parallel Realities 11:10

Jack DeJohnette - Parallel Realities

Miles Davis Nefertiti

そろそろ出さないとしょうがないので出すとしましょう。

かつて『Jazz Life』という雑誌で Miles Davis へのおそらく世界中で最後のインタビューとなった記事があり、取材を受けた Herbie Hancock が次のようなことを言っていました。

「1960年代後半のある日、Boston でのライブの前に僕は悩んでいた。いい形でソロを終わらせるにはどうしたらいいか。それを Miles は見抜いていて、ひとことこんなことを僕に言った。『バターノートを弾くな』 …言われた当初は何のことだか分からなかった。しばらく経ってから『Butter Notes』というのは、スケールやコードの中の豊かな部分、つまり、『おいしい音なんか弾くな』という意味だと分かった。」

Miles Davis という人は誰よりも音楽理論に精通していて、クールなサウンドとは何か、時代を創り出す演奏はどんなものか、を真に予知していた類い希な芸術家と言えるでしょう。数多ある作品の優劣を付けることはもはや不可能ですし、ここは好みで選びました。
本当は「Kind of Blue」を登場させようと思いましたが、あまりにも名盤過ぎるのでやめました。本作は、1967年録音の Davis が Electric を導入する直前の姿を捉えた重要なアルバムです。作曲の主導権を Wayne Shorter に任せ、Shorter が気合いを入れて用意した楽曲を中心に黄金の Quintet と言われた面々で録音されたものです。

表題曲からして、同じテーマを延々と繰り返すスタイルに Jazz を聴き始めの向きには少々敷居が高い趣ですが、このスタイルが当時のありきたりな演奏をせせら笑うかのような実にインテリジェントな風情を醸しだしています。こうしたテンションの高いナンバーに続いて、3.Hand Jive に辿り着くと、そこには Tony Williams が率先して他のメンバーをぶん殴るかのような極めて攻撃的な世界が繰り広げられます。うるさ型にはこのアルバムにこの曲は不要だと言い放つ向きもあるようですが、私はこれを聴きたいがために本作を聴いています。ここでの Williams のドラミングはすべての流れを作り出しており、各人のソロパートを先導する強力な推進力を発揮しているところにゾクゾクさせられます。

最後に Davis のインタビューにあった印象的なお話を。

『あれは Tony が、誰だったか… Freddie Hubbard だったと思うが trumpet のソロの途中で drum を叩くのを止めちまったんだ。手を下ろしちまった。こんなソロのために叩くのはゴメンだ、という意味だなあれは。Tony ってヤツはそういう男だ。』

18歳で Miles Davis Quintet のメンバーに抜擢された Tony Williams 1997年没。52歳の若さでした。

Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)

1. Nefertiti 7:55
2. Fall 6:39
3. Hand Jive 8:58
4. Madness 7:33
5. Riot 3:05
6. Pinocchio 5:09

L’Image 2.0

ちょっと例外となってしまいますが、新しめの作品をご紹介することにしました。ただし、元々は30数年前の幻のグループなのでご容赦ください。

以前ご紹介した「Blue Montreux」から遡ること数年、Mike Mainieri を中心とした L’Image というユニットが実際に存在したことがありました。レコード自体は残っていませんが、本作の bassist である Tony Levin を除いて全員がそのユニットに参加していたのです。当時の Jazz 系のファンならば絶対に聴いてみたい競演でしたが、音源がないので短命だったユニットについて恨めしく思ったものです。
割と思いつきと思われる復活のようですが、多分そうでしょう。「なるほどねぇ、このメンツならそこそこやるだろうけど・・・」という第一印象を持たれる往年のリスナーも多いのではないかと予想できます。私もその例に漏れず「ずいぶんトシだし、大丈夫かしら」と心配しながら聴いてみました。

そこかしこのレビューで見受けられるのは半々の割合で肯定・否定の論評ですが、個人的な意見を申し上げると

『最高の買い物をした』

と宣言いたします。
死ぬ前に聴くことができて本気で良かったと思える出来と言っておきましょう。一曲目もラストも懐かしいナンバーだし、よく知っているのにも拘わらず、この平均年齢が70歳になんなんとするジジィたちによって醸し出されるアンサンブルの巧みさとノリの良さはどうでしょう。特に guitar の David Spinozza のアブラの乗り切った演奏に完全にヤラれました。リズム隊の安定感は当然抜群な上、Mainieri も Bernhardt も期待を大きく上回る好演を繰り広げて最近の一番のお気に入りに文句なく入れさせていただきました。Levin の Stick は芸術ですね。

P.S. ちなみに、iTunes Store のレビューを書いたのは私です。

Mike Mainieri(Vib)
Warren Bernhardt(Key)
David Spinozza(G)
Tony Levin(B,Stick)
Steve Gadd(Ds)

1. Praise 9:33
2. Reunion 5:34
3. Gadd-Ddagit! 5:01
4. Doesn’t She Know By Now? 6:08
5. The Brat 5:46
6. All in a Row 3:55
7. Hidden Drive 4:52
8. Love Play/Coming Home 10:38

L'Image - 2.0

Steely Dan Gaucho

メインストリーム寄りが続きましたので今回は趣向を変えましてスタジオサウンドの究極の見本のようなアルバムをピックアップしてみました。Jazz という枠で括ることができるかは聴く人次第です。

都会的で粋でオサレな音楽は巷にたくさん溢れていますが、これほどのミュージシャンが参加し、一聴して誰それの演奏なのか分かりつつ、楽曲として100%完成されているものは金輪際ないといってよいでしょう。例えば、アメリカ国内でよくいう”Smooth Jazz”や一部の”Black Contemporary”、David Fosterに代表される”AOR”とかに共通するのは、「都会的でセンスが良くて必ずキュンとするサビがある」といったものでしょうか。でもどれを聴いてもみんな同じに感じるのは私だけではないと思います。
決してそれらをけなしている訳ではありません。けど、どうも「量産」が可能なものも少なくない(一定の法則に従えば出来上がる)ような気がするなぁという意味ですが。

さて、Steely Dan というユニットは、Donald Fagen と Walter Becker の二人を中心に、1970年代前半のデビュー当初は普通のバンドとして活動を始めています。しかし二人が完璧な楽曲の創造に重きを置きすぎて、一般的なレコードアーティストの活動である「アルバム制作」→「コンサートツアー」というサイクルを是とせず、結局彼ら二人の曲を理想的なミュージシャンやエンジニアたちを起用することによって制作し作品を発表することのみに集中していったため、ライブはやらない奇妙な形態になっていきました。当然バンドメンバーは居場所がなくなり、Fagen と Becker によるレコーディングユニットが Steely Dan という総称によって、マーケティング的には作品のクレジットに表示されるという図式となっていったのです。とはいえ、その間には Jeff Baxter(g) や Michael McDonald(key) らのような著名なミュージシャンが Steely Dan への参加によってそのサウンドのエッセンスを継承していきました。

本作はキラ星のごとく輝くスタープレーヤーたちの共演というだけでなく、前述した食傷気味になるような迎合性ともほど遠い、今でも新鮮な感動を与えてくれる名曲の宝庫です。前作『Aja』のように、たった数小節のソロパートのためにだけ Wayne Shorter に吹いてもらうという芸当を、必要とあらば惜しげもなくやってしまえる部分は本作にも当てはまっており、制作期間2年半、総制作費も100万ドル近いという化け物のような作品となっています。

WALTER BECKER — bass, guitar, solo guitar
DONALD FAGEN — lead vocals, electric piano, synthesizer, organ
STEVE GADD — percussion
STEVE KHAN — electrc guitar, acoustic guitar, solo guitar
LESLIE MILLER — backup vocals
ROB MOUNSEY — horn arrangements, piano, synthesizer
TOM SCOTT — tenor sax, alto sax, clarinet, lyricon, horn arrangements
VALERIE SIMPSON — backup vocals
Wayne Andre — trombone
Patti Austin — backup vocals
Crusher Bennett — percussion
Michael Brecker — tenor sax
Randy Brecker — trumpet, flugelhorn
Hiram Bullock — guitar
Larry Carlton — solo guitar
Ronny Cuber — baritone sax
Rick Derringer — guitar
Victor Feldman — percussion
Frank Floyd — backup vocals
Diva Gray — backup vocals
Gordon Grody — backup vocals
Don Grolnick — electric piano, clavinet
Lani Groves — backup vocals
Anthony Jackson — bass
Walter Kane — bass clarinet
Mark Knopfler — solo guitar
George Marge — bass clarinet
Nicholas Marrero — timbales
Rick Marotta — drums
Hugh McCracken — guitar
Michael McDonald — backup vocals
Ralph McDonald — percussion
Jeff Porcaro — drums
Bernard Purdie — drums
Chuck Rainey — bass
Patrick Rebillot — electric piano
Joe Sample — electric piano
David Sanborn — alto sax
Zack Sanders — backup vocals
Dave Tofani — tenor sax
Toni Wine — backup vocals

1. BABYLON SISTERS 5:51
2. HEY NINETEEN 5:04
3. GLAMOUR PROFESSION 7:28
4. GAUCHO 5:32
5. TIME OUT OF MIND 4;10
6. MY RIVAL 4:30
7. THIRD WORLD MAN 5:14

高音質なDVD Audioバージョン

Steely Dan - Gaucho

Marcus Roberts The Truth Is Spoken Here

Wynton Marsalis の弟子といって良い盲目の pianist のデビュー盤をご紹介しましょう。残念ながら中古盤くらいしか入手できないかもしれませんが、イチオシの演奏が詰まっています。

若い時に視力を失った Marcus Roberts は、生まれは Florida ですが Thelonious Monk の研究を極めて独特の演奏スタイルを作り上げ、Marsalis に見いだされてからは New Orleans のサウンドにも影響を受けて、さらに高度なプレイスタイルを確立した人物です。
Marsalis の元で以前ご紹介した「Live at Blues Alley」を含めて数々のアルバムに参加し、1988年に発表した自身のデビュー作が本作です。メンバーがスゴイです。なんと、drums は Elvin Jones! 。そして Marsalis の参加はもちろんベテランの Charles Rouse 等が素晴らしい役割を果たしています。

何と言っても圧巻は本人作の 1.Arrival です。私はかつてない感動を味わった楽曲というのを一部始終覚えてしまうクセがあるんですが、このナンバーも例外ではありません。Marsalis による前半のソロもエモーション、テクニックともに最高なのですが、後半の piano trio による演奏の深さに圧倒されます。感動を生み出す源はカタルシスだ、という信念を持っている私が、文句なしに推奨する名演となっています。このような演奏を生で聴くことができたらその場で死んでいいと思うくらいの素晴らしさ。Elvin Jones の渾身の力が込められたワイアブラッシュとゴリラのような唸り声が凄まじい余韻を残してくれます。
ああ、なぜこうした名演が廃盤になってしまうのでしょう。世の中おかしいとしか言いようがありません。

Marcus Roberts (pf)
Elvin Jones (ds)
Reginald Veal (b)
Wynton Marsalis (tp)
Charles Rouse (ts)
Todd Williams (ts)

1. Arrival 9:29
2. Blue Monk 4:28
3. Maurella 7:00
4. Single Petal of a Rose 3:49
5. Country by Choice 8:06
6. Truth Is Spoken Here 5:05
7. In a Mellow Tone 7:20
8. Nothin’ But the Blues 7:07