Gary Peacock Tales of Another

前エントリにて我慢ができなくなったため、お宝を披露することにしました。私にしてみれば全 Jazz アルバム(というより今まで聴いてきたものすべて)の中で(よく考えたら)ベストがこれです。

語ることが多いので長文ご辛抱ください。
ライナーノーツで触れられていますが、Gary Peacock という人は piano は習ったけど bass は「なぜだかわからないのだが、初めて手にした時から両手で正しく弾くことができた。そんなわけで bass を習ったことは一度もない」などと首を傾げたくなるようなことを言っています。真偽はともかく、本作よりだいぶ前に日本にも滞在していたことがあり(確か京都あたり)、それ自体が隠遁を仄めかすような生活だったらしいなど、ミステリアスな側面を持っている人なのです。

高校生の頃にこのアルバムを初めて聴いた時、内省的な寒々しいサウンドだなぁと感じました。ECMらしい欧州くささと言うのか、Jack DeJohnette のシンバルレガートの刻み音がよりスタジオ内の空気に緊迫感をもたらし、Jarrett の唸りとともに「怒り」ともとれない「鬱屈」したマイナー調の音による物語が展開されていました。しかし、聴き込んでいくうちに、特にTrilogy の3部作全編に流れる言い表せないような「熱」を徐々に受け止められるようになっていったのです。
Trilogy は、LPではB面すべてに収録されており、20代の頃に行った吉祥寺の「A&F」という Jazz 喫茶(閉店したそうです)にてリクエストをした時のことは忘れられません。この店は、入り口近くのレジでリクエストを告げるのですが、この場所が何というか、ちょうどパチンコ屋の景品引換所の窓口(普通はビルの裏手とか別の所にある)のような雰囲気の作りになっていて、ちょっと屈んで店主に小声で伝えるんですね。

私 『Gary Peacock の Tales of Another を』
店主『…B面ですね』

たったそれだけの会話でしたが、それがすべてでした。この店では、暗く調光した店内の高級スピーカーが何台も配置された壁に、照明を仕込んだ小型の看板がいくつか掲示してあり、選曲によって使用されるアンプやピックアップカートリッジ等のメーカー名が変わる毎に点灯したり消灯したりするという、かなり凝った演出が施されていました。この曲がどの組み合わせで再生されたかはもう覚えていませんが、新たなニュアンスの発見ができるのに十分な音響だったことは確かです。

さて、この trio は後に Jarrett のリーダーユニットとして「Standards」という呼び名の元に、数々のスタンダードナンバーを演奏していくことになるわけですが、1996年の秋に New York へ行った時は Carnegie Hall のメインホールでこの trio の演奏を聴く機会に恵まれました。Center Balcony というステージをまるで真下に見下ろすような席(前日にゲットしたチケットだったもので…)からでしたが、ニコニコしながら楽しそうにMCをする Jarrett を見ていると「ああ、今のこのユニットには Tales of Another の鬼気迫るような演奏を求めてはいけないんだな」と思ったものです。もちろん、この日の演奏自体は申し分ない素晴らしいものでしたが、本作のインパクトがどれほどのものかを思い知るエピソードになりました。

色々とダラダラ書き連ねてしまいました。私が言いたいのは、絶対にBGMにして欲しくない、(押しつけがましいのを承知で)しっかりと対峙して聴いていただきたい、そういうことです。

Gary Peacock – bass
Keith Jarrett- piano
Jack De Johnette – drums

1. Vignette 7:02
2. Tone Field 7:55
3. Major Major 8:54
4. Trilogy I 8:31
5. Trilogy II 8:42
6. Trilogy III 6:20

Gary Peacock, Jack DeJohnette & キース・ジャレット - Tales of Another