Casiopea Jive Jive

半年ぶりの更新となりました。今回ご紹介するのは、日本を代表するフージョングループ、Casiopea の10作目となる1983発表の作品。

Yamaha DX7 という Digital synthesizer の登場で、デジタルサウンドが陽の目を見た頃、この新しい技術を積極的に取り入れようとジャンルを問わず様々な音楽家が可能性を模索したものです。FM音源を主体とする新しい流れは今まで聴いたことのない硬質でキレのある音作りに一役買い、特に Jazz や Fusion の世界ではスタジオだけでなくライブでのパフォーマンスに圧倒的なアドバンテージを与えました。

そうしたツールの導入もありますが、向谷実の整い過ぎたキーボードの旋律(私はちょっと苦手)が一つの特徴だった Casiopea のサウンドに明らかな変化が現れたのが本作です。ロンドン録音での英国人エンジニアによる嗜好もあり、これまでになかったタイトで甘さを殺した演奏が新鮮です。
1.での野呂一生の guitar と神保彰の生々しい drums にはそれまでの Casiopea とは違うドライな激しさが表現されておりテンションを高めてくれますが、良くも悪くも彼らの看板であるキレイな和音の連なりによって Casiopea としての個性を維持しているナンバーになっています。注目は Vocal をフィーチャーした楽曲で、Kiki Dee が歌う3.はメンバーによるバックコーラスも加わり非常に新鮮な印象を与えてくれます。個人的に好きなのは、少し矛盾しますが向谷作の4.です。耳に残るリズムと旋律で一度聴くとなかなか忘れられません。

全体的に新機軸を打ち出した感のあるアルバムですが、この後のメンバーの入れ替わりやサウンド面での変化を考えると、彼らにとって色んな意味での曲がり角になった作品と言えるでしょう。

Issei Noro (g,per)
Akira Jimbo (ds,per)
Minoru Mukaiya (Key,Syn)
Tetsuo Sakurai (b)
Drachen Theaker (tabla -5)
Phill Todd (sax -6)
Pete Beachill (tb -6)
Guy Barker, Stuart Brooks (tp)

1.Sweat It Out 4:12
2.In The Pocket 3:37
3.Right From The Heart 4:09
4.Step Daughter 3:43
5.Secret Chase 4:50
6.FabbyDabby 3:53
7.Living On A Feeling 4:20
8.S-E 5:05
9.What Can’t Speak Can’t Lie 3:49

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Yellowjackets Politics

どうにも自虐的笑いが止まらないのはなぜでしょう。お気に入りのアルバムをピックアップするたびに思います。なぜなら今回もすでに廃盤になっていたから。

本作は1988年度の Grammy 受賞作ですよ。大人の事情なんて全然知りたくもないですが、何なんでしょうね一体。ネット眺めても「こんなもん、まだ売ってんの?」みたいなのが多いのに、昨今の売れ線洋楽とかどうだっていいから、ちゃんとしたものを残して欲しいと思うのはワガママですかね? 何か腹立ってきます。こんなことやってるから衰退するんだと思いますね。テレビと一緒だ。

西海岸の代表的 Fusion ユニットである Yellowjackets は、1977年に Robben Ford のサポートバンドとして誕生し、どちらかというと爽やか系で売り出したのですが、ちょっとベビー Weather Report 的な曲調が混ざり始めてからは、keyboard の Russell Ferrante を中心に独特のマニアックなユニゾンによるテーマや少し R&B がかったサウンドが目立ち始め、bass の Jimmy Haslip のテクニックも相まって Jazzっぽい路線へシフトしていきました。本作は馴染みやすいメロディーとノリの良さで親しみのあるナンバーばかりですが、Jazz 的な思考は芽生えており次作の「Spin」に至ってそれが顕著に表れることになります。さらに sax がPops系の Marc Russo から Bob Mintzer に替わった1991年以降はより鮮明に進化を遂げていくのでした。本作を一言で評すれば、『Jazz がほんのり香る耳馴染みのいい技巧派サウンド』といいましょうか。Weather Report 好きな私的にはモノ足らない分、Fusion サウンドが受け入れられる方には充分満足していただける作品だと思います。むしろ、これ以降の作品になると Jazz 的なアプローチが増えてくるため、そっち側のファンでないと聴きづらいかもしれません。Ferrante の才能を知らしめた重要な作品でもあります。

Russell Ferrante (key)
Jimmy Haslip (b)
William Kennedy (ds)
Marc Russo (sax)
Alex Acuna (per)
Steve Croes (syn)

1.OZ 4:44
2.TORTOISE & THE HARE 5:32
3.LOCAL HERO 4:38
4.GALILEO (FOR JACO) 5:05
5.FOREIGN CORRESPONDENT 5:43
6.DOWNTOWN 4:02
7.HELIX 4:57
8.AVANCE 5:17
9.ONE VOICE 3:58
10.EVENING DANCE 5:10

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Spyro Gyra Alternating Currents

「Morning Dance」で知られる Spyro Gyra のアルバムの中で個人的に最も思い出深いのがこれです。もちろん好みの問題なのであしからず。

私はかつて New Orleans を訪れる機会が多かったせいか、7.Mardi Gras という曲を聴くたびにこの地を思い出します。Mardi Gras(マルディ グラ)とは、カトリック教会における謝肉祭の最終日という意味で、毎年2月から3月にかけてイースターの日がいつかで日程が変わるのですが、世界三大奇祭の一つともいわれるお祭りです。私も一度だけこの期間に滞在したことがあり、ホテルはどこも割増料金になるやら、通りという通りは人で溢れるやらで大変な騒ぎになります。宗教的な背景があるお祭りとはいえ、日本などでは意外に知られていないようです。この喧噪やワクワク感を表現したものなのかは不明ですが、私には楽曲が現地のイメージに重なって、なんとなく思い出の曲なのです。

開局当時のFM横浜のニュースか天気予報のバックに流れていた曲というと覚えている人もいるかもしれません。さて、Spyro Gyra というバンドはデビューから35年以上、現在でも活動する代表的な fusion バンドですが、メンバーも頻繁に交代するため一体どんな活動の仕方をしてるのか? と思われる向きもあるようです。実は、Jay Beckenstein という sax 奏者が Spyro Gyra そのもので、Jay Beckenstein Band と名乗ってもいいところをレコード会社のマーケティング上の理由から Spyro Gyra 名義で活動することになっているそうです。この人たちに言えることはまず、メチャクチャ演奏がうまい!ことでしょう。CDを聴いただけではピンと来ないのですが、ライブを観た人は例外なくそう思うはずです。私は New York の Blue Note で観たことがあります。この時のメンバーは本作とかなり違いますが、全員舌を巻くほどの演奏技術の持ち主でした。たぶんオーディションの水準は並大抵のレベルではないのでしょう。全体の曲調はセールスを意識したものなので、エグい世界が好みだと物足りない気がしますが、由緒正しいアメリカのバンドと言えるでしょう。スパイロジャイラ
の作品は20作以上に及びます。

1. Shakedown (4:22)
 Jeremy Wall
2. Alternating Currents (4:28)
 Jay Beckenstein
3. Taking The Plunge (4:48)
 (For Jennifer) Jay Beckenstein
4. Binky’s Dream No. 6 (4:13)
 All Members
5. PG (4:15)
 Jay Beckenstein
6. Heartbeat (4:48)
 Jeremy Wall
7. Mardi Gras (6:04)
 Dave Samuels
8. I Believe In You (5:31)
 Tom Schuman
9. Sunflurry (5:01)
 Tom Schuman

Jay Beckenstein (Saxophones, Lyricon)
Tom Schuman (Keyboards)
Richie Morales (Drums)
Kim Stone (Bass)
Julio Fernandez (Guitar)
Dave Samuels (Vibes, Marimba)
Gerardo Velez (Percussion)

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L’Image 2.0

ちょっと例外となってしまいますが、新しめの作品をご紹介することにしました。ただし、元々は30数年前の幻のグループなのでご容赦ください。

以前ご紹介した「Blue Montreux」から遡ること数年、Mike Mainieri を中心とした L’Image というユニットが実際に存在したことがありました。レコード自体は残っていませんが、本作の bassist である Tony Levin を除いて全員がそのユニットに参加していたのです。当時の Jazz 系のファンならば絶対に聴いてみたい競演でしたが、音源がないので短命だったユニットについて恨めしく思ったものです。
割と思いつきと思われる復活のようですが、多分そうでしょう。「なるほどねぇ、このメンツならそこそこやるだろうけど・・・」という第一印象を持たれる往年のリスナーも多いのではないかと予想できます。私もその例に漏れず「ずいぶんトシだし、大丈夫かしら」と心配しながら聴いてみました。

そこかしこのレビューで見受けられるのは半々の割合で肯定・否定の論評ですが、個人的な意見を申し上げると

『最高の買い物をした』

と宣言いたします。
死ぬ前に聴くことができて本気で良かったと思える出来と言っておきましょう。一曲目もラストも懐かしいナンバーだし、よく知っているのにも拘わらず、この平均年齢が70歳になんなんとするジジィたちによって醸し出されるアンサンブルの巧みさとノリの良さはどうでしょう。特に guitar の David Spinozza のアブラの乗り切った演奏に完全にヤラれました。リズム隊の安定感は当然抜群な上、Mainieri も Bernhardt も期待を大きく上回る好演を繰り広げて最近の一番のお気に入りに文句なく入れさせていただきました。Levin の Stick は芸術ですね。

P.S. ちなみに、iTunes Store のレビューを書いたのは私です。

Mike Mainieri(Vib)
Warren Bernhardt(Key)
David Spinozza(G)
Tony Levin(B,Stick)
Steve Gadd(Ds)

1. Praise 9:33
2. Reunion 5:34
3. Gadd-Ddagit! 5:01
4. Doesn’t She Know By Now? 6:08
5. The Brat 5:46
6. All in a Row 3:55
7. Hidden Drive 4:52
8. Love Play/Coming Home 10:38

L'Image - 2.0

Weather Report Tale Spinnin’

前回の「Sweetnighter」から1作飛んで、1975年発表の非常に思い入れの強い作品を先にご紹介します。

『bass はすべての音楽の母であり、drum は父である』〜Joe Zawinul〜

Vitous も Gravatt もいなくなり、ツアーのみに参加した Sly and Family Stone の drummer である Greg Errico もレコーディングまで持たず、リズム陣を模索していた Zawinul はまずネイティブな funk 要素を持った electric bass の Alphonso Johnson を起用しました。drum は Zawinul が最もこだわるパートで、器用さやテクニックにもましてパワーを求めていたため、前作でつないだ Ishmael Wilburn に替えて当時 Carlos Santana のメンバーだった Nduge Leon chancler に声を掛けてリハーサルなしで加えたのでした。

このアルバムは、Johnson と Ndugu のおかげでとてつもなくファンキーな、それでいて土着的な色を失わない Weather Report ならではのサウンドを実現できています。思い入れの強い私としては、前半の楽曲に関しては涙なしで聴くことができないので、かなり覚悟をした上でこっそり聴くクセがついたし、なんというか、「これが Weather Report だ」というサウンドは、理解していただけない方には決して語ることなく、苦節30年耐えてまいりました。これからも「できれば、あんまり分かって欲しくない」作品の一つであり続けるかもしれないけど、こういう音を聴く贅沢さはやはり口を開いてしまう誘惑に負けてしまいます。

Joe Zawinul Rhodes piano, melodica, acoustic piano, TONTO synthesizer, Arp 2600 synthesizer, organ, steel drums, out, mzuthra, vocals, West Africk, xylophone, cymbals
Wayne Shorter Soprano & Tenor Saxophone
Alphonso Johnson Electric Bass
Leon “Ndugu” Chancler Drums, Cymbals, Tympani
Alyrio Lima Percussion

1. Man in the Green Shirt 6:28
2. Lusitanos 7:24
3. Between the Thighs 9:33
4. Badia 5:20
5. Freezing Fire 7:29
6. Five Short Stories 6:56

Weather Report Sweetnighter

Weathre Report 特集の三回目は、1973年発表の Sweetnighter をご紹介いたします。彼らを彼らたらしめる非常に重要なターニングポイントとなったアルバムです。

Zawinul は、「これは世界で最初のヒップホップ音楽だ」と公言しています。1.Boogie Woogie Waltz こそ私がこのバンドのベスト3に選ぶ名曲中の名曲なのですが、この頃のバンドには大きな転換期が訪れていたことも作品に影響を与えています。
これまで、先鋭的な Jazz のエキスパート集団として活躍してきた彼らが、Miles Davis らが指し示した音楽の方向性や Free Jazz の独創性を手放すことなく、より商業的にもアピール可能な道を無駄な妥協をせずに達成するにはどうしたら良いか、という難題に取り組んだ最初の成果がこの作品に結集しているからなのです。

そうした Zawinul の構想には犠牲が伴ったことも事実で、Vitous や Gravatt のような才能溢れたメンバー達に「これも Jazz なんだ」と説得しつつも、最終的には共鳴を得られずに袂を分かつきっかけにもなってしまいました。Gravatt の代わりに作編曲家であり NY のスタジオ運営をしていた Herschel Dwellingham に一時的なトラを頼み、bass には English Horn を始めとするマルチプレーヤーで前作「I Sing The Body Electric」や Fifth Dimension の録音などに参加していた Andrew White III を招いて録音するという状況の中で生まれたのが本作です。
後の Funk 音楽すべてに共通するようなビートやメロディライン、決して置き去りにされない自由なソロ空間など、Weather Report でなければ到達できない音楽世界を創り出していることが、このアルバムをより重要な位置づけとしなければならない理由です。このあたりを咀嚼せずに「Black Market」以降に出会うと単なるポピュラー音楽としての評価しかできない耳になってしまうと私は思っています。

Josef Zawinul: Electric and acoustic piano, synthesizer
Wayne Shorter: Soprano and tenor sax
Miroslav Vitous: Electric and acoustic bass
Eric Gravatt: Drums (tracks 2, 4 and 6)
Dom Um Romão: Percussion
Maruga: Percussion
Andrew White III: Electric bass (tracks 1, 4 and 6), English horn (tracks 3 and 5)
Herschel Dwellingham: Drums (tracks 1, 2, 3 and 6)

1. BOOGIE WOOGIE WALTZ 13:03
2. MANOLETE 5:55
3. ADIOS 2:59
4. 125th STREET CONGRESS 12:13
5. WILL 6:20
6. NON-STOP HOME 3:52

Weather Report Domino Theory

前回の続き。別に年代順に並べているわけではありません。前作を聴くと自然にここへ辿り着くので仕方がないのです。

メンバーは前作と同じで、ゲストがマントラに変わって Carl Anderson を起用している点が異なりますが、何といっても本作の目玉は 2.Db Waltz です。これぞまさに Weather Report しか実現し得ない強力なナンバーで、Omar Hakim と Victor Bailey のリズム隊が前作に続いて信じられないド迫力のビートを繰り出す様はバンド史上最強と言えるかもしれません。新生メンバー以降のアルバムは一般的に評価が低く、本作も同様に駄作扱いする「うるさ型」が多いですが、そんなことはどうだって良いことだし、クソくらえですし、この魅力的な Waltz 一曲とっても聴くに値すると思います。

要注意は 5. で、Miroslav Vitous や Eric Gravatt らがいた初期の頃のサウンドを彷彿とさせるナンバーとなっており、この曲も含めてやはりサッと聴きで判断できない手強いアルバム構成になっています。
Miles Davis 同様、メインの作品群が Columbia からのリリースのため、Sonyの参加しない日本の iTunes においては入手できません。

Josef Zawinul: Keyboards and synthesizers
Wayne Shorter: Saxophones
Omar Hakim: Drums
Victor Bailey: Bass
José Rossy: Percussion
Carl Anderson: Vocals (on “Can It Be Done” only)

1.Can It Be Done 4:02
2.Db Waltz 11:14
3.Peasant 8:20
4.Predator 5:22
5.Blue Sound – Note 3 6:53
6.Swamp Cabbage 5:24
7.Domino Theory 6:13

Weather Report Procession

Wr-procession

喰わず嫌いな方へ Weather Report の理解を深めていただきたく、特集をしていきたいと思います。その1は、1983年発表の本作にしました。

前作を最後に Jaco Pastorius、Peter Erskine による最強のリズム隊を Bailey、Hakim という若手に替えた新生メンバーとなって、熱心なファンが手ぐすね引いて待つ中で発表された作品となりました。なにしろ、数々の伝説を残した Pastorius が抜けた穴をどんなヤツが埋めるんだとギラギラした眼差しで迎えられた Bailey(当時22歳)も、Erskine に替わる Hakim(当時23歳)も大変なプレッシャーだったと本人たちが認めています。

Omar Hakim はその頃すでに第一線で活躍していたのですが、オーディションなしに Zawinul から「ウチに来い」と言われ、有頂天になって母親に「やった、夢が叶った!」と報告するくらい嬉しがったと言います。Bailey も Hakim が決まった後に共演したデモテープを Zawinul が聴いてOKが出たという幸運によって加入したのでした。
さて、本作の特徴はそれまでの Weather Report にさらに超強力な鉄壁のリズムセクションを補強し直したという印象とともに、Zawinul や Shorter がいつになく激しい演奏を繰り広げた感があります。当時最初に聴いた時は「ずいぶん変わったなぁ」と思ったものですが、やがて聴き込んでいくうちに 3.Two Lines の洪水のようなサウンドが全身に潜むマグマを一気に噴出させてしまうかというくらいの圧倒的な迫力で、自然と流れ出てくる涙をぬぐうのが精一杯になるほどの感動を覚えるようになりました。しかし、実は 1.の表題曲から周到に仕組まれた流れに乗らないと、このような体験にならないということが段々明らかになっていったのです。
そして、Manhattan Transfer が加わった Where The Moon Goes もクライマックスに至るまでの計算された流れに乗りさえすれば、思わぬ感動を得ることができる非常に聴く者の受容力を試される作品と言えます。

Joe Zawinul: Keyboards and synthesizers
Wayne Shorter: Tenor and soprano saxophones
Omar Hakim: Drums, guitar and vocals
Victor Bailey: Bass
José Rossy: Percussion and concertina
Manhattan Transfer: Vocals (on “Where The Moon Goes” only)

1. Procession 8:41
2. Plaza Real 5:30
3. Two Lines 7:42
4. Where the Moon Goes 7:49
5. Well 4:00
6. Molasses Run 5:50

Manhattan Jazz Quintet

これも懐かしい今から25年ほど前の企画モノ作品です。Great Jazz Trio などと同様に日本発の、というか日本向けに企画されたユニットとしては最も成功したと言えるかもしれません。7,000枚で御の字の Jazz アルバムで、15万枚売れたとか。それを証明するかのように、うるさいファンにはそっぽを向かれたのも事実です。

キングレコードの川島重行さんという producer による発案で生まれたこのユニットが、録音に臨むにあたっての話がスゴイです。

1984年のある夏の夜、New York のスタジオに売れっ子のミュージシャンが忙しいスケジュールの合間を縫って集まってきます。リーダー格である David Matthews が事前に選曲された譜面をメンバーに渡していき、楽器をセッティングしながらそれぞれ楽曲のイメージを頭に描いていきます。午後8時に全員が揃ったところで、早速 Matthews がアレンジした各曲の録音が始まりました。と、あれれ時計が0時を差したあたりで彼らは笑みを浮かべながらスタジオを後にしていきました。

というものです。何とも『プロ』の仕事とはさもありなん、と思わざるを得ない強烈なエピソードですね。その結果が本作なのです。内容的には、ひんやりとした piano や間を大事にしたアレンジによって『白っぽい』Jazz という印象ですが、17歳という若さで参加している Charnett Moffett の bass が思いがけず饒舌なラインを奏で、Steve Gadd もポップな感覚を封印してストレートアヘッドな演奏に徹していながら、やっぱり Gadd だなぁと思わせるあたり、さすがです。Sweet Basil で Gil Evans の Monday Night Orchestra のライブを見た時にすぐ間近で演奏していた Lew Soloff の trumpet もハイノートも惜しまずに圧巻のソロを繰り広げています。まぁ、Jazz の深みとかはこの際目をつぶって、ですが。そもそも 1.は『枯葉』だったらしいんですが、リハなしで本番に入ったら、『Summertime』になってて時間もないのでそのまんま行っちゃったらしいです。

このユニット自体がうまくいき、アルバムが立て続けに発表され、最近でもCDリリースや興行に乗るという有り様には少々苦笑いしたくなる面もありますが、本作の再発後はクレジットに川島さんの名前が無くなっていたりと大人の事情はよく分かりませんけど、当時の Jazz ファンを増やしたということは間違いないと思います。

Lew Soloff (tp)
George Young (ts)
David Matthews (p,arr)
Charnett Moffett (b)
Steve Gadd (ds)

1. Summertime 8:57
2. Rosario 3:07
3. Milestones 8:24
4. My Favorite Things 9:21
5. Airegin 5:40
6. Summer Waltz 4:26

マンハッタン・ジャズ・クインテット - マンハッタン・ジャズ・クインテット

Arista Allstars Blue Montreux

本当の Fusion はここから始まった、といっても過言ではない永遠の名作です。ご存じの方にとっては、何をか言わんやと思いますが。

1980年初頭に、Jazz系のミュージシャン志望の人たちがこぞってコピーしまくったことから、このアルバムはある意味で当時の"バイブル"といってもいい作品です。
ひと言でいって、『カッコいい!!』 これ以外に当てはまる言葉はないですね。映像も残っていますが、サウンドのみで味わった方が数段感動できること請け合いです。名演の出現確率が抜群に高い Montreux Jazz Festival の中でも歴史上、三本指に数えられるほど優れた演奏が展開されています。

私は、1.の Mike Mainieri の Vibraphone が大好きです。Brecker兄弟はもちろん素晴らしいですが、Tony Levin の Stick がこんなにマッチした曲は他に見あたりません。危なっかしい Steve Jordan の drums もすんでの所で何とかウルトラCをキープしています。ライブの一発勝負でこのクォリティは奇跡でしょう。Randy Brecker 作の 2.も難しいMode曲ながら Larry Coryell の guitar が効いてます(このソロ、トチったら大変なブチ壊しになるでしょうね)。名曲「I’m sorry」の Michael Brecker のブロウも素敵です。

『カッコいい』曲の定義は人それぞれ違うだろうし、時代によっても変わるのは当たり前です。しかし、この Blue Montreux は豪華なメンバーがただ顔を揃えて一緒にやりました、というのとは全く違う、一流ミュージシャンの実力とはどんなものかを見せつけた Jazz 史上に残る傑作なのです。

Mike Mainieri (Vibraphone, Percussion)
Warren Bernhardt (Piano, Keyboards)
Larry Coryell (Guitar)
Steve Khan (Guitar)
Michael Brecker (Sax)
Randy Brecker (Trumpet)
Tony Levin (Bass, Stick)
Steve Jordan (Drums)

1.Blue Montreux(Mainieri) 8:50
2.Rocks(R.Brecker) 7:57
3.I’m sorry(Mainieri) 8:41
4.Magic Carpet(Mainieri) 5:37
5.Buds(R.Brecker) 5:02
6.Floating(Bernhardt) 7:57
7.Virgin and the Gypsy(Mainieri) 8:25