Claus Ogerman Featuring Michael Brecker

以前ご紹介した「City Scape」のシリーズと見せて、実はレーベルも制作意図も違うアルバムですが、個人的には前作とはまた異なる魅力を放つ佳作と捉えています。

「City Scape」が余りにも傑作だったため、当然比較対象として第二弾となればあれこれ言われるのは仕方ありません。巷の批評は芳しくないのは予想通りで、やれ通俗的だとか、なぜストリングスを前面に生かさないのか、とか色々言われました。確かに前作よりアラは多いしトータルアルバムとしては弱い部分もありますが、音楽性における編曲のうまさがそれを補って余りあるのです。

特に前半部分は前作の二番煎じを嫌って、よりポップに仕上げることで差を際立たせる努力が見えます。特筆すべきは 2.で、ここでの Marcus Miller の Slap は楽曲の格調を損なわずに見事なサポートを実現していおり、転調の際にも彼らしい身のこなしで非常に高度なバッキングを披露しています。ラストでの Randy Brecker のソロが全体をブチ壊してしまうのは我慢するとして、Michael Brecker のソロは相変わらず素晴らしく、今これを聴いても惜しいアーティストを亡くしたという無念さがこみ上げてくるのは私だけではないでしょう。後半の Robben Ford による難曲も聴きようによっては名曲であるし、GRPという商業的なレーベルでのリリースであることは差し引いて、こうした作品をできるだけ長く製作してくれるよう、音楽界にお願いしたい気持ちです。

Michael Brecker (ts)
Randy Brecker (tp)
Robben Ford (g)
Dean Parks (g)
Alan Pasqua (key)
Marcus Miller (b)
Abraham Laboriel (b)
Eddie Gomez (b)
Vinnie Colaiuta (ds)
Paulinho Da Costa (per)

1.Corfu 7:55
2.Lyricosmos 8:50
3.After the Flight 10:40
4.Adonia 8:34
5.Boulevard Tristesse 8:05

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Claus Ogerman Featuring Michael Brecker - Claus Ogerman

Dave Grusin One of a kind

Fusion どころか、Crossover という言葉でさえまだ一般的ではなかった1977年に発表された歴史的名盤です。上記お馬さんの絵で当たり前のように認識されているものの、私的にはPolydor盤LPバージョンである Dave Grusin の上半身がフィーチャーされたジャケットの方に愛着があります。

ご存じない方々に申し上げておきますと、Fusion音楽もSmooth Jazzもすべての源はここから発しているといっていいでしょう。おそらく、どの楽器でも作曲法でも編曲法でも一人前になるための要素を全部含んでいるので、ここに収録されている楽曲をマスターすることが一流の演奏家への最短コースとなるでしょう。
類い希なミュージシャンたちの力量と、映画音楽でも存分に発揮された曲作りのノウハウが見事に融合して完成されたアルバムは、現在でも燦然と輝く金字塔です。

確かにこの時点で Weather Report などの先進的なユニットは存在していました。しかし、Jazz の進化形というか、より受け入れられやすいスタイルでもっと沢山の音楽ファンへアピールする作品とは何か、を表す答えとして誕生した本作が果たした役割は歴史的に見ても非常に重要であると思います。

全曲が粒の揃った名曲ですが、1.Modaji における各奏者の音楽性の高さは、33年前という時代を全く感じさせない絶妙なセンスに溢れ、テクニックばかりに比重が置かれるわけでもなくトータルな音楽的創造性を感じさせてくれる代表曲となっています。映画音楽作家としてのキャリアに裏打ちされた Grusin 作品のスケールの大きさや聴くものに様々なシチュエーションの可能性を与えてくれる多彩なバリエーションも本作の魅力になっていると思います。一度は味わっていただきたい名盤です。この後、渡辺貞夫や Lee Ritenour などとのコラボレーションを経て、Grusin は Larry Rosen と共に GRP レーベルを設立します。

Grover Washington Jr. (soprano saxophone)
Ron Carter (acoustic bass)
Anthony Jackson (electric bass)
Francisco Centeno (electric bass)
Steve Gadd (drums)
Ralph MacDonald (percussion)
Dave Valentin (flute)
Don Elliott (mellophone, background vocals)
Larry Rosen (triangle)

1.MODAJI (7:42)
2.THE HEART IS A LONELY HUNTER (6:13)
3.CATAVENTO (4:04)
4.MONTAGE (9:20)
5.PLAYERA (8:44)

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Dave Grusin - One of a Kind

Gil Evans Gil Evans & Ten

前回の予告通り、Gil Evans の代表作にして Big Band Jazz の未来を方向付けた必聴アルバムをご紹介いたします。

Miles Davis の音楽に Gil Evans の存在がなかったら、あのような名声も傑作の数々も生まれなかったということは周知の事実でしょう。「Miles Ahead」、「Porgy and Bess」、「Sketches of Spain」はもちろんのこと、クレジットされていない作品でも膨大な数のレコーディングに関わっていて、Davis 自身も彼の才能に依存していたといいます。そんな影の立役者的なポジションは、彼自身の生涯にわたって象徴的なものになっていきます。Web 上の情報ではほとんど触れられていませんが、晩年を含めて経済的には決して成功者とは言えない音楽家としての一面もあり、そういった部分が前回ご紹介した Gerry Mulligan とは最後まで対照的でした。Mulligan は奏者・作編曲家として成功し、経済的にも不足なく生涯を終えることができたのに対して、Evans はむしろ金銭的な欲もまた得られる機会からも遠いまま1988年に人生を終えました。
1980年代に話題となった NY の Sweet Basil における「Monday Night Orchestra」もそうですが、米国特有の芸術家に手厚い仕組みがなければ、ライブ演奏や単発のレコーディングによる収入だけでは喰っていけないのです。

さて、本作についてですが、1957年録音の Evans 名義としては最初となるアルバムで、楽曲に著しい特色は感じられないにも拘わらず、中身は非常に斬新な構成になっています。特に 2. については、この時代の Big Band 演奏としては衝撃のアレンジと、Steve Lacy や Jimmy Cleveland らトンガった個性の持ち主たちの魅力を引き出し、永遠に Big Band Jazz の転換点として記憶されるべき名演だと私は思います。ソリの部分に不協和音と思わせるような斬新なアレンジは、後に傑作アニメ映画「ルパン三世 カリオストロの城」で大野雄二によるテーマ曲の Jazz バージョンを聴いた時に真っ先に「Ella Speed の影響だな」と思ったものです。いや、実際にそうなのかは本人も言っていないし、わかりません。しかし、あのバージョンを聴くと私は必ずこのアルバムを思い出してしまうのです。

Jimmy Cleveland : trombone
Bart Varsalona : bass trombone
John Carisi : trumpet on 1
Louis Mucci : 1st trumpet
Jake Koven : 2nd trumpet
Willie Ruff : french horn
Lee Konitz : alto saxophone
Steve Lacy : soprano saxophone
Dave Kurtzer : bassoon
Gil Evans : piano
Paul Chambers : bass
Nick Stabulas : drums
Jo Jones : drums on 1

1. Remember (4:30)
2. Ella Speed (5:47)
3. Big Stuff (4:45)
4. Nobody’s Heart (4:22)
5. Just One Of Those Things (4:23)
6. If You Could See Me Now (4:15)
7. Jambangle (4:57)

Gil Evans - Gil Evans & Ten

Quincy Jones Sounds…Stuff Like That

多感な高校時代に Jazz ばっかり聴いていた若者は、渋いサウンドだけを追求していたわけではありません。ノリのいい音にも当然反応しました。

Quincy Jones の功績についてはいずれ場を設けるとして、この名作のことについて少しばかり解説を。
ノリがいい、といっても今時の音と比べると「えっ」って感じかもしれません。それでも構いません。だって、当時このメンバーで(いわゆるStuff中心の)さらに実力派を呼び寄せて構想通りの演奏をされられるなどというのは、Quincy Jones おいて他にいなかったでしょう。メンツをご覧ください。どうやったらつまらなくできるんでしょうか? vocal 陣だけでも途方に暮れるくらい凄いし、どうやって集めたの?って思います。バブリーですね、大作映画一本撮れちゃいますよ。

1.の後半の Chaka Khan を聴いてどうでしょう。稲作系遺伝子をも揺さぶるこの Funky さ。これ聴くとグルーヴ感の違いって東洋人は手も足も出ないことを思い知ります。さらに目玉の 4. ですが、Herbie Hancock の曲で Hancock 自身が弾いたRhodesのソロパートを、Jones の片腕である Sy "Human Xerox Machine" Johnson という人が完璧に採譜して音符に起こし、それを Harry Lookofsky という violin 奏者が Hancock の音に見事にかぶせて弾ききっているのです。
そういった仕掛けへのカラクリがリスナーの頭にあったとしても、曲中盤から効果的に入ってくる handcraps や Gadd 他リズム隊によるテンションの高揚に、じっとしていられなくなる衝動に駆られるに違いありません。音作りの魔術と言ってもいいです。
今でも時々聴くと、冒頭のイントロでどんな気分も自動的にノリノリにスイッチを切り替えてくれる魔法を持った素晴らしい作品です。

Nickolas Ashford (vocals, percussion); Yolanda McCullough (vocals, background vocals); Gwen Guthrie, Luther Vandross, Patti Austin, Tom Bahler, Valerie Simpson, Vivian Cherry, Chaka Khan, Charles May (vocals); David T. Walker, Eric Gale, Melvin Watson, Wah Wah Watson (guitar); Gayle Levant (harp); Tom Scott (lyre, flute, soprano saxophone, alto saxophone, tenor saxophone, lyricon); Jerome Reisler, John Wittenberg, Wilbert Nuttycombe, Carl LaMagna, Marvin Limonick, Betty LaMagna, Connie Kupka, Israel Baker, Arnold Belnick, Nathan Ross, Sheldon Sanov, Harry Bluestone, Harry Lookofsky (violin); Meyer Bello, David Schwartz, Leonard Selic, Samuel Boghossian (viola); Gloria Strassner, Dennis Karmazyn (cello); George Young (flute, saxophone, alto saxophone, tenor saxophone); Hubert Laws, Jerome Richardson, Bill Perkins, Bud Shank, Buddy Collette (flute, saxophone, tenor saxophone); Harold Vick (saxophone, trumpet, flugelhorn); Howard Johnson (saxophone, tuba); David Tofani, Harold Fick (saxophone); Michael Brecker (tenor saxophone); Jon Faddis, Virgil Jones (trumpet, flugelhorn); Chuck Findley, Bill Lamb, Oscar Brashear, Snooky Young (trumpet); Arthur Maebe, David Duke, Sidney Muldrow, Aubrey Bouck, Henry Sigismonti (French horn); Donald Waldrop, Jimmy Cleveland, Robert Payne, Bill Watrous, Charles Loper, Chauncey Welsch (trombone); Alan Raph (bass trombone); Roger Bobo, Tommy Johnson (tuba); Herbie Hancock (piano, electric piano, keyboards); Richard Tee (piano, organ, keyboards); Clark Spangler (synthesizer, programming); Michael Boddicker (synthesizer); Anthony Jackson (bass guitar); Steve Gadd (drums); Ralph MacDonald (percussion); Zachary Sanders, Bill Eaton, Frank Floyd (background vocals)

1. Stuff Like That 6:17
2. I’m Gonna Miss You in the Morning 3:31
3. Love, I Never Had It So Good 5:14
4. Tell Me a Bedtime Story 6:46
5. Love Me by Name 4:10
6. Superwoman (Where Were You When I Needed You) 5:26
7. Takin’ It to the Streets 4:24

Claus Ogerman & Michael Brecker City Scape

すみません。ご存じありませんよね? でも紹介させてください。

私も数々の音楽を聴いてきましたが、ハッキリ言います、これ自分のベスト5に入ってます。『なんで? ただのストリングス入りの企画盤でないの?』とおっしゃるんでしょうね、ちょい聴きのかたは。
『あそっか、Michael Breckerがやってるからねぇ〜』という、もはや偏見に近い見方もあるのでは?
断固として申し上げます。これを聴いて感動しない人は音楽というものを理解してない、と(言い過ぎです)。

騙されたと思って聴いてみてください、2.Habanera のリズムセクションによるストイックな中盤からラストへ徐々にテンションが上がっていく様を…(この間 Michael 抜きです、えっ?) 全体を覆う重厚とは言い難いけど絶妙な Ogerman によるアレンジが、古典音楽に慣れ親しんだ向きにも、すっと胃の腑に落ちる瞬間があるはずだと思うのですが。メインとなる後半は、これまた組曲風に Brecker の魅力を最大限に引き出し、尚かつストリングスの美しさを哀しく儚く表現した絶品となっています。

Ogerman はブラジル音楽の功労者なのですが、このアルバムのプロデゥーサー(プロデューサーは和風に読みすぎ)である Tommy Li Puma の要請で Michael Brecker とのコンビを実現し、このような傑作を誕生させたのでした。ジャケットは Li Puma 氏所蔵の亡命ウクライナ人画家によるものです。この作品の後にリリースされたアルバムも名作なのでいずれご紹介します。

(Sur Lie さん、必聴ですので是非レビューを!)

Claus Ogerman (arranger, conductor)
Michael Brecker (saxophone)
Warren Bernhardt (keyboards)
John Tropea, Buzz Feiten (guitar)
Marcus Miller, Eddie Gomez (bass)
Steve Gadd (drums)
Paulinho da Costa (percussion)

1. Cityscape
2. Habanera
3. Nightwings
4. In The Presence And Absence Of Each Other (Part 1)
5. In The Presence And Absence Of Each Other (Part 2)
6. In The Presence And Absence Of Each Other (Part 3)

Original Release Date: 1982

Claus Ogerman - Cityscape