David Lindley El Rayo-X

Jazz のアルバムではありませんが、もしお聴きになったことがないなら、音楽が好きという理由だけで結構ですので一聴をお勧めします。必ず楽しんでいただけると思います。

David Lindley という人はその風貌に拘わらずたぶん「オタク」です。彼を表す象徴的なエピソードは、若い頃 California の片田舎の Banjo コンテストで5年連続圧倒的ブッチ切りで優勝してしまい、翌年からは困った主催者側から『頼むから審査員として出てくれ』と言われたなんて話でしょうか。能ある鷹は爪を隠さずという感じで、あらゆる楽器を嗜み、バンド活動を始めてからもその才能を Jackson Browne などからも高く評価されました。本作は彼のソロデビュー作なのですが、それまでは Browne の guitarist としての活動もしており、本作においてはマルチ楽器奏者という面も忘れずにその多才ぶりを披露しています。日本でのリリースのためにその邦題を「化けもの」と名付けたことからも相当ユニークなキャラクタの持ち主です。

全体的にレゲエ調のナンバーにしている理由はよくわかりませんが、誰のカバーでも心地よくアレンジされていて、彼の妙に高い声質がどういう訳か自然に耳に馴染んできます。特にお気に入りなのが「Twist and Shout」で、チープな organ の音色が聴く者をリラックスさせ、繰り出されるサウンドについつい引き込まれる不思議な体験をすることができます。何でしょう、このノリは。今聴き返すと、このサウンドは現状のこの国を覆うモヤモヤした雰囲気を吹き飛ばすというか、どこか希望を与えてくれる音に感じてしまうんですよね。Jackson Browne のような社会性や政治色には無縁な Lindley のサウンドは、現状の悩み多き日常に必要な潤滑剤のような存在になる気がします。

David Lindley (vo, g, b, slide g, fiddle, Mandolin, whistle, baglama)
Bob Glaub (b)
Reggie McBride (b)
Ian Wallace (ds)
Curt Bouterse (dulcimer)
Garth Hudson (key)
Ras Baboo (Accordion, timbales, per, vo)
Billy Payne (org)
William “Smitty” Smith (org)
Jackson Browne (vo)
Jorge Calderón (vo)

1.She Took Off My Romeos 3:00
2.Bye Bye Love 2:50
3.Mercury Blues 3:33
4.Quarter Of A Man 3:45
5.Ain’t No Way 3:42
6.Twist And Shout 2:44
7.El Rayo-X 2:53
8.Your Old Lady 4:14
9.Don’t Look Back 3:55
10.Petit Fleur 3:11
11.Tu-Ber-Cu-Lucas And The Sinus Blues 2:14
12.Pay The Man 3:30

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El Rayo-X - David Lindley

Fleetwood Mac Rumours

一応、レビューする前は昔の音源を引っ張り出してちゃんと聴き返してみることを心掛けています。ところが、「このところ、メインストリームがご無沙汰だからこの辺を・・・」などと探っているうちに、ジャンルの違うものが懐かしい思いに釣られて引っかかってしまいます。このアルバムも引っかかるべく取り上げてしまった一つでございます。

1977年、米Billboardで驚異的な31週連続1位を成し遂げたアルバムであり、全世界でおよそ1,700万枚を売り上げた作品です。70年代の全米チャートでは Billboard 200 に700週以上に渡ってチャートインしていた Pink Floyd の「The Dark Side of the Moon」のような化け物アルバムも存在しますが、私はリアルタイムでFM東京の「The World Music」(こちらはCashboxチャート)の小林克也さんが『This week’s No.1 ・・・Fleetwood Mac, Rumours!』と春先から秋まで毎週叫んでいたのを覚えています。とにかく、当時の人気は大変なものでした。このアルバムの中から4曲のシングルカットがそれぞれチャートで1位を独占し続けていたので、アルバム・シングルともに Fleedwood Mac 一色の年だった記憶があります。ヒットとは裏腹にバンドメンバー間の確執がピークだったとは到底思えません。

過去何度もカバーされた「Dreams」は今聴いても当時の感動が甦ってきます。Stevie Nicks の泣きそうな vocal にコーラスがかぶる部分は、カバー曲では超えられないオリジナルの圧倒的な価値でしょう。アルバム中に駄作が一つもない真の傑作というのは、ジャンルを問わずなかなかありませんが、この作品は数少ない例であり、人類の宝といっても過言ではないでしょう。ご存じない方は是非一度聴いてみて、70年代アーティストの音楽性の高さに触れて欲しいです。

Stevie Nicks (vo)
Lindsey Buckingham (g, vo)
Christine McVie (p, key, vo)
John McVie (b)
Mick Fleetwood (ds, per)

1.Second Hand News 2:43
2.Dreams 4:14
3.Never Going Back Again 2:02
4.Don’t Stop 3:11
5.Go Your Own Way 3:38
6.Songbird 3:20
7.The Chain 4:28
8.You Make Loving Fun 3:31
9.I Don’t Want To Know 3:11
10.Oh Daddy 3:54
11.Gold Dust Woman 4:51

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Rumours - Fleetwood Mac

Emerson, Lake & Palmer Trilogy

Jazzは一休み。昨今の巷に溢れる素晴らしいポピュラー音楽については難しくてよく分からないので、目先を変えて私の少年時代のバイブルを紐解くシリーズといたします。

中学生時代、毎日のように聴いてLPが擦り切れては買い直すほど聴きまくった ELP ですが、今でも当時と全く変わらない感動を覚えます。私は正確には Beatles 世代より少し後に位置するため英国のサウンドとの出会いが彼らだったこともあり、いきなり直球勝負で来られた結果、虜になりました。最も衝撃的だったのは「Tarkus」でしたが、味わい深さの点では本作が最も優れています。1960年代以降の British Rock の魅力は、その音楽性にあります。古典音楽の素養を充分に身につけ、既存のジャンルにも関心を払いながら誰のマネでもないユニークかつ格調高い新たなサウンドを作り上げる才能が溢れていたということです。

この Trilogy における楽曲に共通して言えることは、培われた音楽観の深みでしょう。20代の若者たちがなぜこれほどまでに音楽的な熟成を成し遂げられたか、完成度の高い楽曲を生み出すことができたか。現代の音楽家たちが無数のデジタルツールを駆使してもこのような高みに到達できない理由は、出尽くしてしまったフレーズを単に組み替えていじっているだけだからなのです。すでに Charlie Parker が1950年代までに奏でたものが現代の音楽の全てである、と言い切ることもできますが、私には king Crimson を筆頭とした70年代の British サウンドが成し遂げた功績は歴史的にみても極めて重要なムーブメントだったと確信しています。

Keith Emerson (Hammond C3, Steinway piano, Moog III C, Mini Moog model D)
Greg Lake (vocals, bass, acoustic & electric guitars, lyrics)
Carl Palmer (percussion)

1.THE ENDLESS ENIGMA (PART 1) 6:37
2.FUGUE 1:57
3.THE ENDLESS ENIGMA (PART 2) 2:00
4.FROM THE BEGINNING 4:14
5.THE SHERIFF 3:22
6.HOEDOWN 3:48
7.TRILOGY 8:54
8.LIVING SIN 3:11
9.ABADDON’S BOLERO 8:13

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Trilogy - Emerson, Lake & Palmer

Steely Dan Gaucho

メインストリーム寄りが続きましたので今回は趣向を変えましてスタジオサウンドの究極の見本のようなアルバムをピックアップしてみました。Jazz という枠で括ることができるかは聴く人次第です。

都会的で粋でオサレな音楽は巷にたくさん溢れていますが、これほどのミュージシャンが参加し、一聴して誰それの演奏なのか分かりつつ、楽曲として100%完成されているものは金輪際ないといってよいでしょう。例えば、アメリカ国内でよくいう”Smooth Jazz”や一部の”Black Contemporary”、David Fosterに代表される”AOR”とかに共通するのは、「都会的でセンスが良くて必ずキュンとするサビがある」といったものでしょうか。でもどれを聴いてもみんな同じに感じるのは私だけではないと思います。
決してそれらをけなしている訳ではありません。けど、どうも「量産」が可能なものも少なくない(一定の法則に従えば出来上がる)ような気がするなぁという意味ですが。

さて、Steely Dan というユニットは、Donald Fagen と Walter Becker の二人を中心に、1970年代前半のデビュー当初は普通のバンドとして活動を始めています。しかし二人が完璧な楽曲の創造に重きを置きすぎて、一般的なレコードアーティストの活動である「アルバム制作」→「コンサートツアー」というサイクルを是とせず、結局彼ら二人の曲を理想的なミュージシャンやエンジニアたちを起用することによって制作し作品を発表することのみに集中していったため、ライブはやらない奇妙な形態になっていきました。当然バンドメンバーは居場所がなくなり、Fagen と Becker によるレコーディングユニットが Steely Dan という総称によって、マーケティング的には作品のクレジットに表示されるという図式となっていったのです。とはいえ、その間には Jeff Baxter(g) や Michael McDonald(key) らのような著名なミュージシャンが Steely Dan への参加によってそのサウンドのエッセンスを継承していきました。

本作はキラ星のごとく輝くスタープレーヤーたちの共演というだけでなく、前述した食傷気味になるような迎合性ともほど遠い、今でも新鮮な感動を与えてくれる名曲の宝庫です。前作『Aja』のように、たった数小節のソロパートのためにだけ Wayne Shorter に吹いてもらうという芸当を、必要とあらば惜しげもなくやってしまえる部分は本作にも当てはまっており、制作期間2年半、総制作費も100万ドル近いという化け物のような作品となっています。

WALTER BECKER — bass, guitar, solo guitar
DONALD FAGEN — lead vocals, electric piano, synthesizer, organ
STEVE GADD — percussion
STEVE KHAN — electrc guitar, acoustic guitar, solo guitar
LESLIE MILLER — backup vocals
ROB MOUNSEY — horn arrangements, piano, synthesizer
TOM SCOTT — tenor sax, alto sax, clarinet, lyricon, horn arrangements
VALERIE SIMPSON — backup vocals
Wayne Andre — trombone
Patti Austin — backup vocals
Crusher Bennett — percussion
Michael Brecker — tenor sax
Randy Brecker — trumpet, flugelhorn
Hiram Bullock — guitar
Larry Carlton — solo guitar
Ronny Cuber — baritone sax
Rick Derringer — guitar
Victor Feldman — percussion
Frank Floyd — backup vocals
Diva Gray — backup vocals
Gordon Grody — backup vocals
Don Grolnick — electric piano, clavinet
Lani Groves — backup vocals
Anthony Jackson — bass
Walter Kane — bass clarinet
Mark Knopfler — solo guitar
George Marge — bass clarinet
Nicholas Marrero — timbales
Rick Marotta — drums
Hugh McCracken — guitar
Michael McDonald — backup vocals
Ralph McDonald — percussion
Jeff Porcaro — drums
Bernard Purdie — drums
Chuck Rainey — bass
Patrick Rebillot — electric piano
Joe Sample — electric piano
David Sanborn — alto sax
Zack Sanders — backup vocals
Dave Tofani — tenor sax
Toni Wine — backup vocals

1. BABYLON SISTERS 5:51
2. HEY NINETEEN 5:04
3. GLAMOUR PROFESSION 7:28
4. GAUCHO 5:32
5. TIME OUT OF MIND 4;10
6. MY RIVAL 4:30
7. THIRD WORLD MAN 5:14

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Steely Dan - Gaucho