Herbie Hancock Man-Child

良く聴きもせずに最近の音楽はつまらない、とか昔は良かったとか言っていても、昔の音なんて古くさいだけぢゃん、となりそうです。そんなワケで奥の手を出すことにします。個人的 Herbie Hancock 準最高傑作をご紹介しちゃいましょう。1975年の作品です。

ベストが『 Head Hunters
』は譲れないので準最高にしましたが、Jazz 作品がダメなのではなく当時の曲調、アンサンブルがずば抜けすぎているため仕方がないのです。この頃はファンから随分バッシングがあり「生 Jazz に戻れ!」的な批判を多く浴びていました。今も昔も気に入った音楽家にはずっと同じ事をやっていて欲しいというファン心理からなのでしょう。

どうか、1.を聴いてください。二度と忘れられない Wah Wah Watson の guitar とブラス陣による圧倒的なアンサンブル。後半の electric piano のソロに被さってくるブラスの躍動感としびれるエンディングまで息つく暇もなく展開される Hancock ワールドに酔いしれることでしょう。カッコいい音楽というのはこういうモノのことを言うのです。『Head Hunters』から2年、この人は Funk をやらせても時代を切り開く超一流のパフォーマンスを成し遂げてしまうのです。それを出来もしないのに「あんなのは邪道だ」みたいにボソボソと4ビートにしがみついていただけの同業者もいたのです。翌年発表された『 Secrets
』に至っては世界一の cutting guitarist である(Ghost Bustersで売れる前の)Ray Parker Jr.が加わり、リズムは最強になりますが、ブラス色が薄まってしまいそのままフェードアウトしていって Bill Laswell との Hip-hop 路線までファンクは封印されます。しかし、彼の黒いリズムと旋律は acoustic な Jazz の範疇では表現しきれないのは事実で、このアルバムも音楽芸術の一つの到達点に数えられると言えます。

Herbie Hancock (Fender Rhodes,Arp Odyssey, Pro Soloist, 2600, String Ensemble Synthsizers,Hohner D6,Oberheim Polyphonic)
David T. Walker (g)
Stevie Wonder (harmonica)
Blackbird McKnight (g)
Wah Wah Watson (g,Voice Bag,Maestro Universal Synthesizer System,Maestro Sample And Hold Unit)
Bennie Maupin (ss,ts,Saxello,Bass Cl,bf,af)
Wayne Shorter (ss)
Ernie Watts,Jim Horn,Garnett Brown,Bud Brisbois,Jay DaVersa,Dick Hyde (horns)
Paul Jackson (el-b)
Henry Davis (el-b)
Louis Johnson (el-b)
Harvey Mason (ds)
James Gadson (ds)
Mike Clark (ds)
Bill Summers (per)

1.Hang Up Your Hang Ups 7:26
2.Sun Touch 5:08
3.The Trailor 9:35
4.Bubbles 8:59
5.Steppin’ In It 8:38
6.Heartbeat 5:16

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Ricky Peterson Nightwatch

このアルバムがリリースされた時(1990年)、国内盤のいわゆる「帯」にたった一言だけ書かれていた『ミネアポリスのもうひとつの才能』というコピーが、猛烈に想像力を刺激する起爆剤となって購入した代物です。Minneapolis がどうしたって?

この最初のひとつとは、いわずもがな Prince です。でも決してこのアルバムが Prince 的路線だというわけではなく、極めて contemporary な fusion であり見方によっては AOR とも言えるんですが、本作も見事に廃盤になってしまい再発を待っていた作品でした。
結論を申し上げると、再発しておりません。でも、人に貸しっぱなしなのか無くしたのかわかりませんがCDのインデックスケースはあるものの、肝心の中身が無い状態が15年ほど続いたため、2年前に amazon のマーケットプレイスで見つけた中古が $100 近い値付けだったにもかかわらず即決でポチッ。10日ほどで手元に届いた時の嬉しかったこと。早速聴いてみて間違いないのを確認したら、安心の余りぐったりしてしまいました。

本作は、Ricky Peterson という類い希なミュージシャンを Tommy LiPuma というproducerがその魅力をたっぷり詰め込もうと努力したが、結果的にセールスには結びつきませんでしたごめんなさいというアルバムです。
私が引きつけられて止まないのは、序盤のインストゥルメンタルの部分で、ここでのリズム隊のタッチはシーケンサーとは別次元でカッコいいグルーヴを生み出しており、そこに Peterson の hammond や piano の絶妙なメロディが絡んで見事なオトナの音にしてくれています。3曲目以降は1曲おきに、Bill LaBounty らのナンバーを伸びのある少しだけ鼻にかかった vocal で歌いまくり、まるで AOR アルバムのような内容にしているのですが、この歌声がまた並大抵のうまさではないため、次作以降も必ず歌ものが目玉になる構成になっていったのでした。

こうも継続的に売れないアルバムを好むのは個人的な趣向としか言いいようがないわけで、こうして果たして入手できるのか不明な作品をご紹介しながら、それでも聴いてもらえれば必ずやワカってもらえるはずと信じて懲りずに続けていく覚悟でございます。

Ricky Peterson (key, vo)
Paul Peterson (g)
Jimmy Behringer (g)
Oliver Lieber (g)
Levi Seacer (g)
Robben Ford (g)
John Patitucci (b)
Shaun LeBelle (b)
Vinnie Colaiuta (ds)
Gordy Knudtson (ds)
Don Alias (per)
Brandon Fields (as)
Larry Williams (sax)
Bob Malach (sax)
Kenny Garrett (sax)
Gary Grant (tp)
Jerry Hey (tp)
Bill Reichenbach (tb)
Patty Peterson (vo)
Margaret Cox (vo)
Billy Franze (vo)
J.D.Steele (vo)
Jevetta Steele (vo)
Jearyln Steele Battle (vo)
Fred Steele (vo)

1.One Never Knows 4:02
2.Night Watch 5:47
3.Livin’ It Up 3:44
4.High Rise Drifter 3:42
5.Look Who’s Lonely Now 4:20
6.Take A Chance 4:12
7.Put Your Faith In Me 4:37
8.The Crazed Weazel 3:59
9.Take My Heart Away 5:44

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Dave Grusin One of a kind

Fusion どころか、Crossover という言葉でさえまだ一般的ではなかった1977年に発表された歴史的名盤です。上記お馬さんの絵で当たり前のように認識されているものの、私的にはPolydor盤LPバージョンである Dave Grusin の上半身がフィーチャーされたジャケットの方に愛着があります。

ご存じない方々に申し上げておきますと、Fusion音楽もSmooth Jazzもすべての源はここから発しているといっていいでしょう。おそらく、どの楽器でも作曲法でも編曲法でも一人前になるための要素を全部含んでいるので、ここに収録されている楽曲をマスターすることが一流の演奏家への最短コースとなるでしょう。
類い希なミュージシャンたちの力量と、映画音楽でも存分に発揮された曲作りのノウハウが見事に融合して完成されたアルバムは、現在でも燦然と輝く金字塔です。

確かにこの時点で Weather Report などの先進的なユニットは存在していました。しかし、Jazz の進化形というか、より受け入れられやすいスタイルでもっと沢山の音楽ファンへアピールする作品とは何か、を表す答えとして誕生した本作が果たした役割は歴史的に見ても非常に重要であると思います。

全曲が粒の揃った名曲ですが、1.Modaji における各奏者の音楽性の高さは、33年前という時代を全く感じさせない絶妙なセンスに溢れ、テクニックばかりに比重が置かれるわけでもなくトータルな音楽的創造性を感じさせてくれる代表曲となっています。映画音楽作家としてのキャリアに裏打ちされた Grusin 作品のスケールの大きさや聴くものに様々なシチュエーションの可能性を与えてくれる多彩なバリエーションも本作の魅力になっていると思います。一度は味わっていただきたい名盤です。この後、渡辺貞夫や Lee Ritenour などとのコラボレーションを経て、Grusin は Larry Rosen と共に GRP レーベルを設立します。

Grover Washington Jr. (soprano saxophone)
Ron Carter (acoustic bass)
Anthony Jackson (electric bass)
Francisco Centeno (electric bass)
Steve Gadd (drums)
Ralph MacDonald (percussion)
Dave Valentin (flute)
Don Elliott (mellophone, background vocals)
Larry Rosen (triangle)

1.MODAJI (7:42)
2.THE HEART IS A LONELY HUNTER (6:13)
3.CATAVENTO (4:04)
4.MONTAGE (9:20)
5.PLAYERA (8:44)

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Dave Grusin - One of a Kind

Marcus Roberts The Truth Is Spoken Here

Wynton Marsalis の弟子といって良い盲目の pianist のデビュー盤をご紹介しましょう。残念ながら中古盤くらいしか入手できないかもしれませんが、イチオシの演奏が詰まっています。

若い時に視力を失った Marcus Roberts は、生まれは Florida ですが Thelonious Monk の研究を極めて独特の演奏スタイルを作り上げ、Marsalis に見いだされてからは New Orleans のサウンドにも影響を受けて、さらに高度なプレイスタイルを確立した人物です。
Marsalis の元で以前ご紹介した「Live at Blues Alley」を含めて数々のアルバムに参加し、1988年に発表した自身のデビュー作が本作です。メンバーがスゴイです。なんと、drums は Elvin Jones! 。そして Marsalis の参加はもちろんベテランの Charles Rouse 等が素晴らしい役割を果たしています。

何と言っても圧巻は本人作の 1.Arrival です。私はかつてない感動を味わった楽曲というのを一部始終覚えてしまうクセがあるんですが、このナンバーも例外ではありません。Marsalis による前半のソロもエモーション、テクニックともに最高なのですが、後半の piano trio による演奏の深さに圧倒されます。感動を生み出す源はカタルシスだ、という信念を持っている私が、文句なしに推奨する名演となっています。このような演奏を生で聴くことができたらその場で死んでいいと思うくらいの素晴らしさ。Elvin Jones の渾身の力が込められたワイアブラッシュとゴリラのような唸り声が凄まじい余韻を残してくれます。
ああ、なぜこうした名演が廃盤になってしまうのでしょう。世の中おかしいとしか言いようがありません。

Marcus Roberts (pf)
Elvin Jones (ds)
Reginald Veal (b)
Wynton Marsalis (tp)
Charles Rouse (ts)
Todd Williams (ts)

1. Arrival 9:29
2. Blue Monk 4:28
3. Maurella 7:00
4. Single Petal of a Rose 3:49
5. Country by Choice 8:06
6. Truth Is Spoken Here 5:05
7. In a Mellow Tone 7:20
8. Nothin’ But the Blues 7:07

Ray Bryant Slow Freight

秘蔵盤というか、廃盤復刻を繰り返す稀少盤ということで入手困難かと思いますが、あえてご紹介いたします。たぶん、ハマると一生モノになる深〜いアルバムです。

初っぱなから、ぐっとアーシーな piano のリズムに「あっ、これ好き」となる方もいらっしゃると思います。リズム隊とホーンのストイックな展開をよそに、vocal comment の Paul Serano の名調子が重なって少しずつだんだんテンションが上がっていき、ラッパが叫ぶ瞬間に気持ちよさが突き抜ける… という感じが何とも絶妙な Slow Freight でまずヤラれてしまいます。
Donald Byrd 作の 2.は軽快なゴスペル調のナンバー。こんな佳作はやっぱり売れないんでしょうね。1.は1972年の有名な「Alone at Montreux」でも聴くことはできるので雰囲気だけは分かっていただけるかもしれません。とにかく、こういうの好きな人って一杯いると思うんですがねえ。今夜も聴くことにしよっと。

Ray Bryant (p)
Richard Davis (b)
Freddie Waits (ds)
Art Farmer (tp, Flh)
Snooky Young (tp, flh)
Paul Serano (Vocal Comment -1.only)

1. Slow Freight 7:01
2. Amen 5:01
3. Satin Doll 4:54
4. If You Go Away 4:52
5. Ah, The Apple Tree (When The World Was Young) 3:36
6. The Return Of The Prodigal Son 5:06
7. The Fox Stalker 3:34

McCoy Tyner Fly With The Wind

今回もとっておきのお気に入り盤をご紹介しましょう。McCoy Tyner の強力な企画モノです。

10代の頃にあらゆる Jazz を聴くべく、Jazz 喫茶通いと FM 番組のエアチェックに勤しんでいました。大概はラジオで知って、上京して Jazz 喫茶で確認した上でレコードを探して帰るパターンでした。しかし、このアルバムはそれまで聴いたことがないまま Jazz 喫茶でかかっていたのを聴き、衝撃を受けてどうしても欲しくなり探して買って帰ったのを鮮明に覚えています。

本作は、Bill Evans の名作などで知られる Riverside のプロデゥーサーだった Orrin Keepnews が起こした Milestone レーベルの中でも初期のベストと言い切れるアルバムです。
皆さんは、弦楽奏団をバックに演奏するというパターンは、Jazz に限らず様々なジャンルでやられていることをよくご存知だと思います。重厚なストリングスが、あるいは Big Band のような豪華な伴奏をバックにソロをとったりする醍醐味は、ミュージシャンにとって一つの勲章となりうる瞬間だと思います。
そういった既成のストリングス入りのアルバムと本作が決定的に違うのは、弦楽隊が Combo の演奏にリアルタイムで、つまりナマの実況録音として参加していることなのです。当時でも多重録音やシーケンサーによるなんちゃってオーケストラでまともにレコーディングできる環境が整っていたはずですが、本作はあえて奏者による生録音を敢行して成功した作品なのです。

その結果、弦楽器奏者による迫力ある調べがあたかも必然の要素となって、Tyner のパーカッシヴな piano、Billy Cobham の重量感あふれる drums、荒々しい中にも繊細さを失わない Hubert Laws の Flute などが壮大なスケールで鳴り響く感動的な傑作アルバムが生まれました。私に言わせれば、これを聴かないことで後悔するというより、聴いてしまったことで自らの音楽観を何倍にも広げられるような新しい価値を授けてくれる作品だと思います。愛聴盤です。

McCoy Tyner (p,arr)
Hubert Laws (fl)
Billy Cobham (ds)
Ron Carter (b)
orchestra conducted by William Fscher

1.Fly With The Wind 8:30
2.Salvadore De Samba 12:13
3.Beyond The Sun 5:33
4.You Stepped Out Of A Dream 6:55
5.Rolem 5:43

マッコイ・タイナー - Fly With The Wind

Keith Jarrett Köln Concert

 

piano というものを、ある一つの最高の表現方法で形にした Jazz 史上に残る名作です。

Return To Forever 同様、正統派の Jazz ファンからは色々ご意見がありましたが、これを作品として認めないのは人間としてどうかと思います。極めて、極めて美しい時間がそこにあります。
Art Blakey の Jazz Messengers を皮切りに Miles Davis Group への参加を経て、’71年の「Facing You」を残した Jarrett は、’73年にブレーメン・ローザンヌでのソロライブを収めたアルバムを発表して創作活動の幅を広げました。Miles Davis Group での楽旅の際に出会った ECMレーベルの社長であり、Producer である Manfred Eicher が Jarrett の才能を開花させたといえるのがこの「完全な即興」スタイルなのです。事前の作曲は一切なく、コンサートホールで piano に向かって初めて音を紡ぎ出すという、まさに完全なるインプロヴィゼーションの世界での出来事です。

各楽曲は説明するまでもなく、彼の piano に対するひたむきな愛情であり、古典音楽の素養も含め Jarrett 独自の空間を創り出しています。私は、全編にわたって楽曲の音の連なりをほぼ一音たりとも残さず覚えてしまったクチです。
この後に個人的に Jazz のアルバムでベスト3としている「Tales of Another」(後日必ずご紹介)を作ることになりますが、Keith Jarrett を万一ご存じなければどうあっても聴いていただかないと困る作品が本作です。

Keith Jarrett (p)

1.KÖLN, January 24, 1975 Part I    26:15
2.KÖLN, January 24, 1975 Part II a  15:00
3.KÖLN, January 24, 1975 Part II b  19:19
4.KÖLN, January 24, 1975 Part II c  6:59

キース・ジャレット - The K?ln Concert

Horace Silver And The Jazz Messengers

ハードバップ、ファンキー路線の決定版の登場です。

1950年代半ば、ビバップの祖 Charlie Parker が没したのを境に一世を風靡したハードバップ Jazz。その最大の牽引者が Horace Silver です。彼の piano は Bud Powell 譲りの、コードというより低音域を叩くような独特の左手とバラエティに富んだフレーズを繰り出す右手の躍動感が特徴で、また楽曲のアレンジ能力も非常に高く、ワクワクする構成の名曲を多数生み出しています。

本作は、何といっても 1.Room 608 が最高です。こういう、いつ聴いてもスカッとさせてくれる曲に出会うことは人間が生活していく上でかなり重要ではないか、としみじみ思うのですが。Silver 名義では他に「Blowin’ The Blues Away」という若手をまとめ上げた作品も外せないのですが、本作の場合 The Jazz Messengers の初代 pianist として、またブームの火付け役としての重要性を考えると充分イチオシする価値があると判断しました。

KENNY DORHAM, trumpet
HANK MOBLEY, tenor sax
HORACE SILVER, piano
DOUG WATKINS, bass
ART BLAKEY, drums

1. Room 608
2. Creepin’ In
3. Stop Time
4. To Whom It May Concern
5. Hippy
6. Preacher
7. Hankerin’
8. Doodlin’

Horace Silver and the Jazz Messengers - Horace Silver and the Jazz Messengers

Herbie Hancock V.S.O.P.

この人の場合、何から取り上げていっていいのか苦労します。今回は悩んだ結果、こうなりました。

このアルバムも、ず〜〜と絶版になってました。売れる売れないとかでなく、版権などの大人の事情なんかもあるんでしょう、きっと。でもですよ、Rockで例えれば Allman Brothers Band At Fillmore East や Deep Purple Live in Japan のような(ちょっと違うか)ものなのに、Jazzの世界ではすぐ廃盤になっちゃうんですよね。納得いかない。(?ONY系のレーベルに多いぞ!)

言いたいことは山ほどありますが、ご紹介を。本作は、あの映画『真夏の夜のジャズ(Jazz on a Summer’s  Day)』の舞台にもなった、Newport Jazz Festival の1976年のプログラムの1つとして録音された作品です。ちなみにご存じでない方のためにこのジャズフェスのことを少し。

Newport Jazz Festival は、米国ロードアイランド州の避暑地で行われていた世界最古の Jazz の野外イベントで、pianistだった George Wein という人が社交界のお金持ちの援助を受けて1954年に始めたものです。数々の名演の舞台になりましたが、個人的には野外のジャズフェスというのは所詮「お祭り」的で、あまり心に響くような演奏は期待しにくいものという思い込みがあります(例外あり)。そしてその後、フォーマットの拡張という名目で集客やスポンサーの意向もあって1972年に一度 New York City へ開催場所を移します。本作もこのタームに行われたもので、New York City Centerでのライブとなっています。
模倣した野外フェスが増えていき、先見の手腕を評価された Wein は調子に乗って「リゾートでやるのが一番」と今度は同じNYの Saratoga に場所を移し、さらに日本の斑尾でも興行を行うという大活躍。この時期が野外のジャズフェスの全盛期と言えます。
目玉を失った本家 Newport は、もう一度夢を見たいがため 1981年にイベントの場所を元へ戻します。その後は Wein もメディア会社へイベント自体の興行権を譲渡し、すっかり目立たない存在に落ちぶれました(その後JVC Jazz Festival という名称でNYCにて開催)。

さて、本作は1976年開催のプログラムとして、Hancockの音楽的軌跡をサマライズする目的で組まれたのですが、Miles Davis 時代は外せないため Davis を招聘したかったがもちろん叶わず、そんぢゃ Freddie Hubbard でということで決まった前半と、Julian Priesterらとの Sextant時代の中盤、さらに Wah Wah Watson や Ray Parker Jr. らとのユニットでFunk全開な後半の3つから構成されています。なんといっても圧巻は前半最後の「Introduction of Players」から「Eye of The Hurricane」へのくだりです。Hancock によるスリリングなメンバー紹介は、これだけでひとつのエンターテインメントといえるほどの興奮をもたらす最高のスパイスとなっています。そして元祖神童 Tony Williams による信じられない圧倒的な Drumming! それまで、「Fore and More」あたりでスゲェ〜と思っていた印象を一気に吹っ飛ばす最強の演奏に思わず息を呑みます。そして、同じくメンバー紹介からカッコいい後半の「Hang Up Your Hang Ups」へとなだれ込みます。今の若い方々はこの曲を聴いてどう思うんですかね? 私なんか今でも悶絶しそうになるくらい「カッコいい〜」となりますけど。なんか、書いてたら聴きたくなったので聴きながら書きますね。
とにかく、内容的も盛り沢山ですが演奏が素晴らしいので Hancock のおすすめ作品ではこれを外すわけにはいきません。この頃、折からのCrossoverというか後のFusionブームが到来して電子楽器が主流に躍り出ようとしている時期でしたが、ここでの Miles Davis Quintet のトリビュートがきっかけで、それまでElectricへ傾斜を深めていた Hancock がAcousticなサウンドに回帰したこともその後のJazz界にとっては良かったのかもしれません。

Bass – Ron Carter (1-4) , Mchezaji Buster Williams (5-7)
Drums – Tony Williams (1-4) , Jabali Billy Hart (5-7) , James Levi (8-9)
Electric Bass – Paul Jackson (8-9)
Electric Piano [Rhodes, Yamaha Electric Grand Piano], Clavinet [Hohner D6] – Mwandishi Herbie Hancock (1-3)
Electric Piano [Rhodes, Yamaha Electric Grand Piano], Synthesizer [Arp Odyssey, Arp String Ensemble], Clavinet [Hohner D6], Synthesizer [Micro-moog, Oberheim Polyphonic Synthesizer, Echoplex, Countryman Phase Shifter, Cry Baby Wah Wah] – Herbie Hancock (8-9)
Electric Piano [Yamaha Electric Grand Piano] – Herbie Hancock (1-4)
Flute [Alto] – Mwile Bennie Maupin (5-7)
Guitar – Ray Parker Jr. (8-9)
Guitar, Synthesizer [Maestro Universal Synthesizer System, Maestro Sample & Hold], Talkbox [Voice Bag] – Wah Wah Watson (8-9)
Percussion – Kenneth Nash (8-9)
Saxophone [Tenor, Soprano] – Wayne Shorter (1-4)
Saxophone [Tenor, Soprano], Lyricon – Bennie Maupin (8-9)
Trombone [Tenor, Bass] – Pepo Julian Priester (5-7)
Trumpet – Freddie Hubbard (1-4)
Trumpet, Flugelhorn, Effects – Mganga Eddie Henderson (5-7)

Producer – David Rubinson
Recorded on June 29, 1976

1. Piano Introduction 4:32
2. Maiden Voyage 13:18
3. Nefertiti 5:17
4. Introduction Of Players/Eye Of The Hurricane 18:35
5. Toys 14:00
6. Introductions 1:47
7. You’ll Know When You Get There 7:00
8. Hang Up Your Hang Ups 11:54
9. Spider 10:12

Chick Corea Return To Forever

なんだ、メインストリーム・ジャズはどうしたんだ?
と言われそうですが、今しばらくお待ちを。

例えば、政権が変わるというような待ち構えて行われる変化には、人は順応というかそれなりの対応ができると思いますが、予想しえない変化には拒否反応を示す方も多いようで。

この Return To Forever は、ジャズ愛好家にとってはまさに賛否両論、ボロくそ派と待ってました派の真っ二つに分かれた作品といえます。

まず第一に、Chick Corea のルーツ的なスパニッシュな味付けであり、玄人好みする難解さを極力抑えた曲調であり、Flora Purim(drumsのAirto Moreiraの奥さん)の歌い方であり、結局何もかもダメな人と良かった人に評価が分かれました。

私は、聴いた瞬間から虜になったサイドにいましたので、わぁわぁ騒ぐ人らの意見は民主主義的に「そういう考え方もありますね」という解釈というか、無視してました(笑)。理論的にどうであっても楽しめない音楽は自己満足でしかありません。

さて、本題です。例えば、「Sometime Ago / La Fiesta」の最初の印象は、私に言わせればプログレッシブロックの大作のような展開? とこういう感想でさえ『けしからん!』みたいな反動がありましたが、正直どんどんテーマを昇華しながら曲調に乗って高揚していく演奏に「どう? こういうの気に入った?」と言わんばかりの挑発的な視線を感じるところが最高です。…分かりづらいですね。

次作の『Light As A Feather』で発表される名曲「Spain」につながる大胆なラテン風味を散りばめて、Corea 自身もそれまでの代表作である『Now He Sings, Now He Sobs』のような上手なピアニストってだけではない、非凡な才能を世に見せつけた傑作です。私は今でも世界一のピアニストは Chick Corea だと思っています。
ちなみにamazonの方のジャケ写ではなく、「ECM」が中央にあるのがオリジナルです。

Bass, Double Bass – Stanley Clarke
Drums, Percussion – Airto Moreira
Electric Piano – Chick Corea
Flute, Saxophone [Soprano] – Joe Farrell
Vocals, Percussion – Flora Purim

1.Return To Forever 12:06
2.Crystal Silence 6:55
3.What Game Shall We Play Today 4:26
4.Sometime Ago / La Fiesta 23:18

チック・コリア - Return to Forever