Jon Faddis Into The Faddisphere

またまたレアもののご紹介ですみません。昔から Jazz を聴く者の習性かもしれません。このアルバムをお持ちの方は果たしているのでしょうか。

Jon Faddis は、米国の National Treasure である Dizzy Gillespie の愛弟子で trumpet 奏者としては超の付くベテランです。リーダーとして自己名義の作品を多く残しているわけではないのでご存じない方もいることでしょう。しかし彼のラッパなくして世に言う名盤も生まれなかったわけで、数々の有名な録音に驚くほど参加しています。彼の信条は師匠譲りの強烈なハイノートサウンドで、本作の大半で鳴り響く、まるで草笛を大音響にしたような高音域の音色は、他の追随を許さない完璧さを見せつけています。Maynard Ferguson という人もハイノートで有名ですが、私は Faddis の方が音楽思考的に好きです。

本作は1989年の録音で、時代的に Wynton Marsalis を筆頭とした新主流派的なサウンドに近いナンバーもありますが、サイドメンはこの時点で若手の中でも飛び抜けた名手を揃えていることも見逃せません。特に女流ではピカイチだった piano の Renee Rosnes が Chick Corea ばりに冴える5.や、全編を通じて通好みなドラミングの Ralph Peterson など、かなりの聴き応えです。この中でも個人的にシビれたのは 6.Retro Blue で、導入部のクールなアレンジがたまりません。ハイノートもやり過ぎは禁物ですが、このアルバムはやり過ぎ1ミリ手前くらいで何とか成り立っていると言えるでしょう。前述のように若手の演奏の素晴らしさが光る作品として聴くに値すると思います。しかし、残念ながら現在はマーケットプレイス以外での入手はほぼ絶望的です。

Jon Faddis (tp)
Ralph Peterson (ds)
Renee Rosnes (p)
Phil Bowler (b)

1 Into the Faddisphere 6:46
2 Sambahia 5:13
3 At Long Last 5:15
4 The Early Bird Gets the Short End of the Stick 5:44
5 Many Paths (To the Top of the Mountain) 7:05
6 Retro Blue 4:38
7 Ciribiribin 7:43
8 War and Peace 3:37

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Miles Davis Nefertiti

そろそろ出さないとしょうがないので出すとしましょう。

かつて『Jazz Life』という雑誌で Miles Davis へのおそらく世界中で最後のインタビューとなった記事があり、取材を受けた Herbie Hancock が次のようなことを言っていました。

「1960年代後半のある日、Boston でのライブの前に僕は悩んでいた。いい形でソロを終わらせるにはどうしたらいいか。それを Miles は見抜いていて、ひとことこんなことを僕に言った。『バターノートを弾くな』 …言われた当初は何のことだか分からなかった。しばらく経ってから『Butter Notes』というのは、スケールやコードの中の豊かな部分、つまり、『おいしい音なんか弾くな』という意味だと分かった。」

Miles Davis という人は誰よりも音楽理論に精通していて、クールなサウンドとは何か、時代を創り出す演奏はどんなものか、を真に予知していた類い希な芸術家と言えるでしょう。数多ある作品の優劣を付けることはもはや不可能ですし、ここは好みで選びました。
本当は「Kind of Blue」を登場させようと思いましたが、あまりにも名盤過ぎるのでやめました。本作は、1967年録音の Davis が Electric を導入する直前の姿を捉えた重要なアルバムです。作曲の主導権を Wayne Shorter に任せ、Shorter が気合いを入れて用意した楽曲を中心に黄金の Quintet と言われた面々で録音されたものです。

表題曲からして、同じテーマを延々と繰り返すスタイルに Jazz を聴き始めの向きには少々敷居が高い趣ですが、このスタイルが当時のありきたりな演奏をせせら笑うかのような実にインテリジェントな風情を醸しだしています。こうしたテンションの高いナンバーに続いて、3.Hand Jive に辿り着くと、そこには Tony Williams が率先して他のメンバーをぶん殴るかのような極めて攻撃的な世界が繰り広げられます。うるさ型にはこのアルバムにこの曲は不要だと言い放つ向きもあるようですが、私はこれを聴きたいがために本作を聴いています。ここでの Williams のドラミングはすべての流れを作り出しており、各人のソロパートを先導する強力な推進力を発揮しているところにゾクゾクさせられます。

最後に Davis のインタビューにあった印象的なお話を。

『あれは Tony が、誰だったか… Freddie Hubbard だったと思うが trumpet のソロの途中で drum を叩くのを止めちまったんだ。手を下ろしちまった。こんなソロのために叩くのはゴメンだ、という意味だなあれは。Tony ってヤツはそういう男だ。』

18歳で Miles Davis Quintet のメンバーに抜擢された Tony Williams 1997年没。52歳の若さでした。

Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)

1. Nefertiti 7:55
2. Fall 6:39
3. Hand Jive 8:58
4. Madness 7:33
5. Riot 3:05
6. Pinocchio 5:09

Donald Byrd Byrd in Flight

このところ、廃盤で長く諦めていた作品が復刻されることが増えて嬉しい限りです。今回も随分長いこと待ち望んでいたアイテムが手に入ったのでご紹介いたします。

Donald Byrd といえば「Fuego」や「Royal Flush」などがすぐに浮かぶわけですが、どれもダメとは言わないまでも心酔するほどではありません。1960年録音の本作を私が押すのは、大胆なアフロキューバンリズムを取り入れた 1.Ghana の心躍る躍動感に他なりません。とにかく、Hank Mobley も Lex Humphries も主役の Byrd を喰ってしまうくらいの素晴らしいパフォーマンスを繰り広げ、ゾクゾクするような興奮をもたらす大好きな曲です。おまけに曲によってはやはり大好きな Jackie McLean の alto sax も楽しめるのでアルバムとしての価値も高いはずなのに、なぜかここ20年くらいは手に入りませんでした(私の知る限り)。

アタマの1曲買いは昔からやってますが、聴いていくうちにジワジワと収録曲の良さが分かってくるっていうのはご経験ありませんか? LP時代の録音特性として、円周の大きい外側のほうが情報量が多いため、アーティスト側は自信曲を1曲目に持ってくるものでした。構成上必要だからとかではなく、まず1曲目に聴いて欲しいものを持ってくるのがアナログ時代の常道だったようです。CD以降は逆に読み取りは円の内側から再生しています。ディジタルなので情報は均一になったんでしょうが、風情がなくなりました。とまぁ、そんなことはどうでもいいですが、このCDが手に入り、聴くたびに Ghana で感動の涙を流しています。おすすめ。

Donald Byrd, trumpet
Hank Mobley, tenor sax(1,3,4)
Duke Pearson, piano
Doug Watkins, bass(1,3,4)
Lex Humphries, drums
Jackie McLean, alto sax(2,5,6)
Reginald Workman, bass(2,5,6)

1. Ghana 7:19
2. Gate City 7:27
3. Lex 5:02
4. Little Boy Blue 7:36
5. “Bo” 6:32
6. My Girl Shirl 5:48

Wynton Marsalis Live at Blues Alley

どうでしょう、決定版と言っていいと思います。トラディショナルジャズへのリスペクトが頂点に達し、有り余るテクニックを思う存分発揮した天才ウィントンの最高傑作です。

ワシントンD.C.にある「Blues Alley」に行ったのは1990年頃だったと思いますが、私が観たのは organ の Joey DeFrancesco のグループと、失念してしまった驚異的な女性 vocalist でした。それより、本作のライブがここで行われていたことを思うと感慨深かったのを思い出します。

彼の故郷である New Orleans に(十数回は行ってるので多少ガイドできます)「Snug Harbor」というクラブがあるんですが、彼のお父さん(Ellis)が定期的に出演しています。今でも活動されています。ここでは、南部のディープなサウンドがジャズだけでなく、ゴスペルのおばさんの強烈な歌声が店を壊すかのごとく鳴り響いていたりします。あの New Orleans の様々な歴史やサウンド(Second LineやCajunやZydeco)が、ジャズの優等生である Wynton のエッセンスとなっているのは間違いありません。

本作では、前半の「Juan」から「Cherokee」につながる部分を聴いていただければ、この Quartet の神髄を多少はご理解頂けると思います。盲目の Robarts による間合いを聴くだけでも鳥肌が立ってきます。やっぱりジャズは実演がいいです。その時の音と息吹きが。
レコードとCDへの移行の過渡期にあった当時(1986年)、Wynton はレコード発売を拒否してCDのみでの発売に固執したことも特筆すべきことでしょう。

Wynton Marsalis (trumpet)
Jeff Watts (drums)
Robert Hurst (bass)
Marcus Roberts (piano)

Disc: 1
1. Knozz-Moe-King
2. Just Friends
3. Knozz-Moe-King (Interlude)
4. Juan
5. Cherokee
6. Delfeayo’s Dilemma
7. Chambers of Tain
8. Juan (E Mustaad)
Disc: 2
1. Privave
2. Knozz-Moe-King (Interlude)
3. Do You Know What It Means to Miss New Orleans?
4. Juan (Skip Mustaad)
5. Autumn Leaves
6. Knozz-Moe-King (Interlude)
7. Skain’s Domain
8. Much Later